【断熱】エヌ・シー・エヌ:「断熱だけでは、2050年の家はつくれない」――HEAT20鈴木大隆理事長、猛暑・中間期・窓から住まいの未来像示す

エヌ・シー・エヌ(NCN)は9月4日、オンラインセミナー「~HEAT20 理事長が語る住まいの未来像~2050年に向けて、居住環境の質とエネルギー削減の方向性」を開催した。講師に一般社団法人みらい建築・住宅研究機構(HEAT20)の鈴木大隆理事長を迎え、気候変動が進むなか、断熱性能だけにとどまらない住宅のあり方を展望した。
主催したNCNは、阪神・淡路大震災を契機に開発した木造建築の「SE構法」を軸に、構造計算や資材供給、建築環境設計などを手掛ける。全国約630社の工務店・ハウスメーカーに木造建築のプラットフォームを提供。近年はZEH・ZEB化に向けた設備設計、省エネ計算、温熱環境シミュレーションなどにも事業領域を広げている。
HEAT20は、居住空間の温熱環境やエネルギー性能、建築耐久性の観点から、外皮技術をはじめとする設計・技術の調査研究、開発、普及に取り組む一般社団法人。2026年に和文名称を「20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会」から「みらい建築・住宅研究機構」に変更し、4月には鈴木氏が理事長に就任した。住宅外皮性能のG1・G2・G3水準などを提案し、日本の高断熱住宅市場をけん引してきた。
■「例年」が通用しない時代、設計に求められる許容力
鈴木氏がまず示したのは、住宅を取り巻く前提そのものが変わり始めているとの認識だ。気候変動によって平均気温が上昇する一方、年ごとの変動も大きくなり、従来の「平年値」を前提とした住宅設計だけでは対応しにくくなると指摘した。
住宅の寿命が50年、100年へと延びるなか、現在の設計が将来の気候でも十分な性能を保てるのか。鈴木氏は、将来予測の一点を追うより、気象条件が変化した際に住宅がどこまで対応できるかという「許容幅」を住まい手に説明することが、実務者に求められるとの考えを示した。
人口減少や高齢化、小規模世帯の増加、生活様式の変化も同時進行する。省エネ機器や断熱など「技術だけでエネルギーを抑え込む」手法には限界があり、国の基準だけでは規定できない変化に対応する想像力と、それを住まい手へ伝える表現力が重要になるとした。
■G1・G2・G3の「数字」から、夏・中間期・窓の価値へ
HEAT20が提案してきたG1、G2、G3についても、鈴木氏はUA値そのものを目標にする考え方に距離を置いた。本来目指したのは、断熱性能の数値ではなく、ノンエナジー・エナジーベネフィットを住まい手にもたらす住宅という「シナリオ」にある。
「G2が難しいからG2.5にする」といった議論については、作り手側の都合から水準を考える発想になりかねないと指摘。重要なのは「つくれる性能」ではなく「住まい手に何を提供するか」と強調した。
その視点は、冬の断熱から夏、中間期へと広がる。高断熱化が進む地域では暖房負荷と冷房負荷が接近し、地域によっては冷房負荷が上回るケースも想定される。このためHEAT20では、夏期・中間期についても冷房負荷削減の性能水準を提案している。
鈴木氏がとりわけ重視したのが「窓」だ。近年は断熱性能を高める一方で窓面積が縮小する傾向にあるが、窓には熱だけでなく、風や光、外部とのつながりを室内へ取り込む役割がある。春や秋など外気温が室温より低い時間帯に外気を取り込み、冷房負荷を減らす「外気冷房」の活用を提案。採光についても、床面の水平面照度だけではなく、空間全体の明るさを捉える「空間照度」で住環境を考える必要性を訴えた。
■2050年へ、住宅性能を「住まい手の言葉」に
建築物の脱炭素政策では、省エネに加えLCA(ライフサイクルアセスメント)を用いた評価も本格化する。鈴木氏は、既存住宅を改修しながら長く使う住宅産業への転換とLCAには親和性があるとの見方を示した。新築中心から、改修や維持管理を含めて地域の住宅を支える産業への変化も視野に入れる。
一方、ZEHなどの基準について「作り手の基準ではあるが、住まい手の目標にはなりにくい」と指摘。年間エネルギー削減率だけでなく、どの時間帯にどれだけエネルギーを減らし、どのような室内環境を実現するのかまで踏み込んで示す必要性を提起した。
2050年へ向けた住宅の課題は、断熱性能をどこまで引き上げるかだけではない。猛暑をどうしのぎ、春と秋の外気をどう生かし、窓から風と光をどう取り込み、その性能が住まい手の暮らしに何をもたらすのか。鈴木氏の講演は、省エネ性能の「数字」を追う段階から、その先にある居住環境の質を設計する段階へ、住宅業界が移りつつあることを浮き彫りにした。
〔参照〕
▷エヌ・シー・エヌ
▷一般社団法人 みらい 建築・住宅研究機構