【ゼミ】YKK AP:自治体・教育委員会向けセミナー開催、学校断熱は「後回し」にできない課題へ―子どもの学習環境改善と財政負担軽減を両立するライフサイクルマネジメントを提案

YKK APは6月29日、自治体・教育委員会向け特別企画セミナー「後回しにしない学校断熱 子供の学習環境改善と自治体の財政負担軽減を成し遂げるライフサイクルマネジメント術」をオンラインで開催した。
近年、夏場の猛暑による児童・生徒の熱中症リスクや冬場の厳しい寒さは、学校における学習環境の課題となっている。加えて、エネルギー価格の高騰により、自治体では学校施設の光熱費や維持管理費の抑制も急務。
こうした中、2026年度から国の断熱リフォーム補助事業「先進的窓リノベ」の対象が拡充され、学校を含む非住宅建築物も対象となった。セミナーでは、この制度を活用しながら、窓断熱を起点に学校施設の省エネ化と快適性向上を進める具体策が紹介された。
冒頭、YKK AP ビル統括本部 ビル商品企画部 販売推進室の東谷昇和氏が、セミナーの趣旨を説明。全国の公立小中学校では耐震化や空調設備の整備が進み、冷房設置率も高い水準に達している一方で、断熱改修については十分に進んでいない現状を指摘した。
多くの学校ではエアコンを設置しても「設定温度を下げても教室が冷えない」「光熱費が膨らむ」といった課題が残り、その背景には建物自体の断熱性能不足があるという。
無断熱の教室でエアコンを稼働させる状態は「穴の開いたバケツに水を注ぎ続けるようなもの」。大きな窓から日射熱が入り、屋根や天井からも熱が伝わるため、空調設備だけでは本質的な解決にならない。
2026年度から学校などの非住宅建築物にも対象が広がった「先進的窓リノベ」補助金は1棟あたり最大1,000万円の補助が活用できる。既存窓の内側に新たな窓を設置する「内窓」は、短工期で学校運営への影響を抑えながら導入できる有効な手法であることが解説された。
■実測データが示す、エアコンだけでは解決できない学校の熱環境
特別講演では、エネルギーまちづくり社 代表取締役で東北芸術工科大学教授、みかんぐみ共同代表の竹内昌義氏と、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻の前真之准教授が登壇した。両氏は「学校断熱改修推進プロジェクト」で得られた実測結果や現場での知見をもとに、学校断熱の効果と課題を解説した。
竹内氏は、全国の学校現場で進めてきた断熱ワークショップや改修プロジェクトの経験を紹介。学校の暑さ対策は、エアコンの設置が進んだことで問題が解決したように見えがちだが、実際には天井や窓からの熱の影響により、子供たちの体感温度は大きく上昇しているという。
特に体育館は、冷房が入っていても天井面の温度が高く、室温以上に暑さを感じるケースがある。「屋根からの輻射熱や窓からの熱の侵入を抑えなければ、冷房効率は上がらず、快適な環境は実現しにくい」と強調した。
遮熱フィルムなどの一時的な対策だけでも限界があるという。最適解は窓の断熱性能を高め屋根や天井の断熱と組み合わせれば空調負荷を下げる方法。結果として、必要な空調設備の容量を抑えることができ、初期費用やランニングコストの削減にもつながる。
自治体の中には、すでに大型の業務用エアコンを導入した後で「断熱の必要性」に気づく例も少なくない。設備を大きくする前に建物の性能を高めることが、結果的に財政負担を軽くする道だと訴えた。

続いて登壇した前准教授は、建築環境工学の視点から、断熱改修の効果を実測データに基づいて説明した。これまで内窓などの断熱改修は「冬の寒さ対策」として語られることが多かったが、近年の猛暑下では、夏の冷房効率を高める上でも欠かせない対策になってきた。
無断熱の教室では、天井面が熱を持ち、窓際では日射や外気温の影響を大きく受ける。内窓の設置や天井断熱を実施すれば、室内表面温度が安定し、教室内の温度ムラが抑えられることが示された。
「最上階や直天井の教室、無断熱の屋根・天井を持つ空間について、優先的に対策すべき」。天井からの熱の伝わりを断つことで、エアコンの効きは大きく改善する。窓断熱はコールドドラフトを抑えるだけでなく、夏の冷房負荷低減にも有効であり、子供たちが集中しやすい環境づくりにつながる。
断熱・遮熱を十分に行えば、従来の大型業務用空調に頼らず、家庭用エアコンを複数台設置するような低コスト・短工期の手法も現実的になると提案した。
実際の体育館で家庭用エアコンを複数台設置した事例にも触れられた。大型の業務用空調では大規模な工事や電気設備の増強が必要になる一方、家庭用エアコンの活用では施工期間を大幅に短縮できる。断熱によって空調負荷を下げた上で、適切な設備を組み合わせることが、ライフサイクルコストの低減に直結すると説明した。
■補助金とリースを組み合わせ、全校一斉導入の壁を越える
後半では、YKK APとみずほ東芝リースが学校断熱を実現するための支援策やソリューションを紹介した。YKK APからは、2026年度「先進的窓リノベ」補助事業の対象拡大により、教育施設や公的施設、医療福祉施設などでも窓断熱改修に国費を活用できるようになったことが説明された。
学校の窓改修は1教室単位では比較的小さな工事であっても、全校・全教室へ広げると大きな予算規模になる。補助金を活用し、自治体の自己負担を圧縮することが重要だとした。
みずほ東芝リース 理事 第三営業部長の岡田亘司氏は、内窓導入におけるリース契約の活用を提案した。同社は全国1,000以上の自治体と取引実績があり、従来の情報機器に加え、LED照明、空調、太陽光発電、エレベーターなど、公共施設向け設備のリースにも取り組んでいる。
自治体からは「必要性は分かっているが、単年度で予算が確保できない」「一部の学校だけを先行すると公平性の問題が生じる」といった声が多い。
リースを活用すれば、初期投資を抑え、費用を複数年度に平準化できる。限られた財政状況の中でも、全校一斉導入や計画的な改修を進めやすくなる。まとまった規模で発注できるため、調達や施工の面でスケールメリットも期待できる。リース契約では設備の維持管理や破損時対応を外部化できるため、自治体職員の管理負担を軽減できる点も利点として示された。
パネルディスカッションでは、学校断熱がこれまで後回しにされてきた理由について議論が交わされた。耐震化やエアコン設置が優先されてきたこと、エアコン設置で暑さ対策が完了したという誤解、工期の制約、文部科学省や環境省など省庁・部局間の縦割り、断熱の費用対効果に関する認知不足などが課題として挙げられた。
登壇者からは、学校断熱は単なる暑さ・寒さ対策ではなく、子供の健康と学習環境を守り、自治体の光熱費や維持管理費を抑える「次世代への投資」であるとの考えが示された。環境部局と教育委員会が連携し、脱炭素や子育て環境の充実という自治体の政策発信にもつなげることが重要だという。
今回のセミナーは、補助金の拡充とリース活用という新たな選択肢を示しながら、学校断熱を「後回し」にせず、実行段階へ移す必要性を訴える内容となった。YKK APは今後も、窓断熱を起点に、子供たちの学習環境改善と自治体の財政負担軽減を両立する学校施設整備を支援していく方向性を示していた。
〔参照〕
▷YKK AP
▷エネルギーまちづくり社
▷東京大学工学部建築学科 “Maelab”
▷みずほ東芝リース
▷先進的窓リノベ2026事業