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【焦点】奇跡の一本松の地で問う「地域新電力の価値」――電力自由化10年、震災15年の節目に全国130人超が陸前高田に集結、地域経済を支える次の10年へ

2026.09.28

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東日本大震災の津波に耐え、復興の象徴となった「奇跡の一本松」。

その松が立つ岩手県陸前高田市に、全国各地で地域のエネルギー事業を担う人々が集まった。東日本大震災から15年、電力小売りの全面自由化から10年。地域の自立を目指して生まれた地域新電力は、地域にどのような価値をもたらしてきたのか。そして、次の10年に向けて何を生み出せるのか。

国内最大の地域新電力団体、ローカルグッド創成支援機構は9月17~18日、陸前高田市で「ローカルグッド全国大会2026」を開催した。第4回目となる今回は「地域新電力の価値は出ているか」をテーマに掲げ、全国から130人を超える自治体、地域新電力、企業などの関係者が参加した。電力事業の将来展望からカーボンプライシング、地域脱炭素政策、地域経済への波及効果まで議論を交わし、地域新電力の存在意義と今後の方向性を探った。

初日の会場となった陸前高田市コミュニティホールでは、ローカルグッドの大滝精一代表理事が開会を宣言。電力自由化から10年という節目に触れ、設立当初に思い描いた地域への価値を実現できているか、参加者それぞれが振り返る機会にしてほしいと呼びかけた。

続いて、陸前高田市の石渡史浩副市長が登壇。震災から15年を経て、同市の復興がハード面の整備から地域の魅力や価値を高める新たな段階へ移行していると説明。陸前高田しみんエネルギーの大林孝典代表取締役は、全国の関係者が集まる今回の大会を、地域の未来を動かす力につなげたいとの期待を示した。

■電力とデジタルの融合、地域新電力は「地域インフラ会社」へ

講演の最初に登壇したのは、RAUL代表取締役で新電力ネットを主宰する江田健二氏。「これからの電力事業はどうなるか~ワット・ビット連携など分野の融合~」をテーマに、電力事業の新たな可能性を示した。

電力の価値は従来の安定供給や価格だけでなく、環境価値、時間帯ごとの需給調整、調整力などへ多様化している。国が推進するワット・ビット連携を、電力とデジタルを組み合わせて新たな価値を生み出す取り組みとして紹介した。

地域新電力にとっても、太陽光発電や蓄電池などの設備をデータでつなぎ、需要予測やリスク管理に活用することで、小売事業の効率化と新規事業の創出が可能になる。地域に分散する小規模なエネルギー設備を束ね、需給調整市場などで活用する事業機会にも言及した。

電力事業で培った地域とのつながりを、交通、農林水産業、福祉などの分野に広げる構想も提示。地域新電力が電気を販売するだけの存在から、暮らしや地域経済を支える「地域インフラ会社」へ進化する可能性を示した。

一方、こうした事業展開を各社が単独で進めることは容易ではない。事業者間の連携とともに、成功事例だけでなく失敗や課題も共有できるネットワークの重要性を訴えた。

続いて、京都大学大学院教授でローカルグッド理事の諸富徹氏が「エネルギー事業のゆくえ~カーボンプライシングを中心に~」と題して講演。

国際情勢の変化による化石燃料価格の変動を踏まえ、再生可能エネルギーの導入は気候変動対策に加え、エネルギー安全保障の観点からも重要性が高まっている。排出量取引制度をはじめとするカーボンプライシングの強化により、発電事業者のコスト構造や競争条件が変化する。企業による再生可能エネルギー調達についても、電力の供給時間や地理的な条件を考慮する方向性を紹介し、地域で再エネ電源を開発・調達する意義を強調した。

再エネの普及に伴って出力制御が拡大するなか、発電した電力を単に販売するのではなく、いつ、どこで、誰に供給するかが重要になるとの見方も示した。蓄電池や需要側の設備を組み合わせ、複数の電源を制御するアグリゲーション事業を、地域新電力の新たな展開の一つに挙げた。

■脱炭素は地域課題解決の手段、陸前高田が示す地域経済循環

環境省の沼田正樹地域脱炭素事業推進課長は、政府の地域脱炭素政策と地域エネルギー会社への期待を説明した。

脱炭素を単独の目的として捉えるのではなく、企業誘致や産業振興、防災力の向上など、地域が抱える課題の解決と一体的に進める重要性を強調。脱炭素先行地域や重点対策加速化事業を通じ、地域経済循環と地域のレジリエンスを高める取り組みを紹介した。

自治体が保有する廃棄物発電などの既存インフラを地域のエネルギー資源として活用する可能性に言及。地域エネルギー会社には、電力供給にとどまらず、地域資源や資金を地域内で循環させる役割を期待した。

続く講演では、陸前高田市 脱炭素推進室の水野竜一氏と陸前高田しみんエネルギーの大林氏が、震災復興の先を見据えた地域脱炭素の取り組みを紹介した。

陸前高田市は脱炭素先行地域に選定されている。農林水産業の担い手不足、耕作放棄地や放置林の増加、津波被災跡地の利活用、エネルギー代金の域外流出などの課題に対し、再エネ導入と資源循環を組み合わせた産業振興を進めている。

その一つが、津波被災跡地などを活用した営農型太陽光発電。ワタミオーガニックランドでは、太陽光パネルの下で醸造用ブドウを栽培し、農業生産と発電を両立させている。

地域内で生み出した再エネ電力は、陸前高田しみんエネルギーを通じて供給。電力小売りだけでなく、再エネ開発やグリーンスローモビリティの運行にも取り組んでいると説明した。

地域にもたらす効果は如何ほどのものか。インパクト評価では売上高のうち約3割が地域経済への波及効果があるとの試算を公開。地域資本による再エネ電源の開発・調達を拡大した場合、地域経済への波及効果はさらに高まるとの試算結果も紹介した。

一方、価格以外の地域貢献を需要家にどう伝え、契約の獲得や継続につなげるかという課題もある。地域新電力の価値を生み出すことと、その価値を地域の人々に理解してもらうことの双方が必要との認識が示された。

その後、参加者は分科会に分かれ、電源調達、リスクヘッジ、営業、再エネ開発、人材採用、地域課題解決などをテーマに議論した。全国各地の事業者が抱える課題や実践例を共有し、今後の連携の可能性を探った。

■設立秘話、震災復興で生まれた「地域が主役」の発想

大会終盤には「ローカルグッド設立秘話座談会」を開催。設立を主導した、まち未来製作所代表取締役の青山英明氏と、初期から参画したローカルエナジーの森真樹氏が、設立当時の思いや苦労を振り返った。

設立の原点は、東日本大震災後の復興事業にあったという。大手企業主導で復興計画が進む一方、地域で事業を担う主体が不在となる課題が浮き彫りになった。

2016年の電力小売り全面自由化を見据え、地域住民が自ら電力を選び、地域主体で事業を運営する仕組みの必要性が高まったことが、ローカルグッド創設につながった。

小規模な地域新電力が単独で構築するには負担の大きい需給管理システムや専門知識、事業ノウハウを共有し、地域の人材が電力事業を担える環境を整備することを基本理念に掲げた。

電力事業を地域づくりの手段と位置づけ、地域内に雇用と資金循環を生み出すとともに、各地域の特性に応じた事業の自立を支援する。

設立当初の理念を継承しながら、地域に根差すだけでなく、収益性と競争力を備えた「強いローカルビジネス」を育成していく。電力事業は地域づくりの手段であり、目的ではない。設立から12年を経た全国大会で、その原点が改めて共有された。

ローカルグッド創成支援機構は2014年に設立。地域エネルギー会社やまちづくり会社の設立・運営を支援する団体。2026年9月現在、正会員38社、賛助会員74団体の計112団体が加盟する。自治体のほか、企業、大学、研究機関なども参画する国内最大の地域新電力団体となっている。

基本メソッドは「Share・Open・DIT(Do It Together)」。専門知識や事業ノウハウを開放しながら、会員が共同で新たな事業を生み出す。具体的には、需給管理や顧客管理、料金計算などのシステム共有、専門家の共同活用、電力の共同調達、再エネ開発支援などを展開。会員間の連携を通じ、地域新電力の事業基盤強化を図っている。

今回の全国大会では、2019年に策定したローカルグッド宣言を改めて確認するとともに、2026~2030年度の中期目標を発表。今後もさらなる「ローカルにグッド」な事業の拡大支援を展開していくことが宣誓された。

大会2日目には、陸前高田市内でフィールド見学会を実施。参加者は脱炭素先行地域の取り組みや市有林のJ-クレジット活用、震災復興の現状などを視察した。

■地域新電力の次の10年、電気を売る先に何を生み出すか

電力小売り全面自由化から10年。地域新電力は、電力価格の変動や制度変更に対応しながら、再エネ開発や地域内経済循環、雇用創出、地域課題解決へと活動領域を広げてきた。

一方、電力を供給するだけでは十分な収益を確保しにくく、地域への貢献を事業の競争力につなげることも容易ではない。

今回の全国大会では、電力とデジタルの融合、再エネ電源の開発、地域資源の活用、人材の育成など、次の成長に向けた方向性が示された。

と同時に、各地域が異なる課題を抱えるなかで、共通の仕組みやノウハウを共有し、個々の地域に合った事業を育てるという設立当初の理念が改めて確認された。

震災から15年を迎えた陸前高田市では、復興によって整えられた街を、いかに持続可能な地域へと発展させるかが新たな課題となっている。地域新電力が生み出す価値も、電力の販売量や利益だけでは測れない。

エネルギーを通じて地域に資金と雇用を生み、暮らしを支え、次世代につながる産業を育てられるか。奇跡の一本松の地で開かれた全国大会は、地域新電力が次の10年に向けて、その問いに具体的な事業で応えていくための節目となった。

〔参照〕
▷一般社団法人ローカルグッド創成支援機構