【戦略】ハンファジャパン:家庭の電気を「資産」に。統合ブランド『ENERICH™(エネリッチ)』始動―太陽光・蓄電池・電力小売・VPP等を一体提案、エネルギーサービスを運用型モデルへ

ハンファジャパンは7月2日、事業戦略説明会を開催。トータルエネルギーソリューションブランド「ENERICH™(エネリッチ)」の展開方針を示した。太陽光パネル、蓄電池、HEMS、電力小売、VPP(仮想発電所)などを一体化し、電気を単なる消費対象から「運用する資産」へ転換する構想を打ち出した。本格展開に向けて販売パートナーとのさらなる連携を広げていく。
説明会には工務店、住宅関連事業者、商社、報道関係者ら200名以上が会場に参集。冒頭、登壇したハンファジャパンの張熙載(ジャン ヒジェ)社長は、来場者への謝意を示したうえで「新ブランドの構想を一方的に発信するだけではなく、顧客に近いパートナー企業の意見を取り込みながら、日本市場に合う製品と仕組みを整えていく姿勢」を強調した。
ハンファジャパンは、韓国の大手企業グループであるハンファグループの日本法人。グループは2025年度の売上高が10兆円を超え、韓国だけでなく世界有数の企業グループに位置付けられる。事業は太陽光発電だけでなく、防衛・航空宇宙、造船、金融、風力、グリーン水素、LNGなど多岐にわたる。
エネルギー分野では、太陽光パネルの製造に加え、発電事業や電力サービス、次世代太陽電池の開発にも取り組む。説明会では、月面で使う次世代太陽電池の実証など宇宙分野を含む先端技術の開発も紹介された。日本では、ハンファジャパンが太陽光発電システムの販売を広げてきた。全国約4,700社の販売パートナー網を持ち、住宅会社や工務店、販売店との強固な接点を築いている。
これまで「Hanwha」だけでなく「Qcells」「Re.RISE」といった商品軸毎に設けたブランド戦略で太陽光発電事業を展開してきた。一方、太陽光パネル、蓄電池、PPA、電力小売、電力買取といった施策が個別に動き、顧客や販売店から見たブランド体系が複雑になっていた。ENERICHは、こうした複数の製品・サービスを再整理し、「作る」「ためる」「運用する」を1つのブランドに統合する取り組みとなる。

エナジーソリューション事業部の李事業部長は、ENERICHを家庭の電力利用全体を設計するブランドと位置付けた。太陽光パネルで電気を作り、蓄電池にため、HEMSや電力小売、電力取引を通じて運用する。グループ会社のQ.ENESTが持つ電力小売や需給管理の知見を組み合わせ、ハードウエア販売にとどまらない継続型の事業モデルを構築する。
背景にあるのは太陽光発電市場の変化。FIT制度の終了を迎える卒FITユーザーの増加、電気代高騰や防災意識の高まり、新築ではGX-ZEHがスタートするなど蓄電池の導入は特別な選択肢ではなくなりつつある。今後はEV連携、AI制御、VPPなどを含め、導入後の電力運用まで含めた提案力が競争力を左右する。ハンファジャパンは、機器の初期販売で完結する従来型の事業から、顧客の電力利用を長期的に支えるモデルへ軸足を移す構え。
同ブランドコンセプトは「でんきは、資産だ。」である。生活者が電気を買って消費するだけの存在から、自ら作り、ため、運用する「プロシューマー」へという将来像が描かれている。ENERICHという名称には、エネルギーで暮らしを豊かにし、地球環境全体も豊かにする意味を込めた。ロゴには、電気を賢く使う知恵の象徴として「フクロウ」と「電球」を組み合わせたキャラクターを採用した。
鍵となる販売パートナーには「お家のエネルギーコンサルティングサービス」を提唱。保険のライフコンサルタントのように、住宅の状況や家族構成、ライフスタイル、電力使用状況に応じて、最適な設備構成や運用方法を提案。導入前は工務店や販売店などが「人のコンシェルジュ」となり、導入後はアプリやウェブサービス、AI分析が「技術のコンシェルジュ」として電気資産の見える化や改善提案を担うことでビジネスを循環させていく。
■電力小売とVPPを組み合わせ、販売店にも継続収益
ENERICHは、太陽光パネルによる「作る」、蓄電池による「ためる」、HEMSや電力小売、VPPによる「運用する」の3層で構成される。FITユーザーには自家消費率を高める運用を提案し、卒FITユーザーには既存の太陽光設備に蓄電池と電力運用を加えることで売電・買電の最適化を図る。非FITユーザーには、導入当初から太陽光、蓄電池、電力サービスを一体で設計し、市場環境に応じた運用を提案する。
Q.ENESTは、ENERICHにおいてアグリゲーターとしての役割を担う。家庭用蓄電池を束ね、スポット市場、容量市場、需給調整市場など複数の電力市場を組み合わせて運用する構想。電力価格が安い時間帯に充電し、高い時間帯に放電することで得られる差益、供給能力に対して対価を得る容量市場、短時間で調整力を提供する需給調整市場などを活用し、顧客の収益最大化を目指す。
同社は、電力小売、Non-FIT太陽光発電、系統用蓄電池、住宅用PPAなどを手掛ける。実質再生可能エネルギー100%の料金プラン、夜間割安プラン、環境価値サービス、オフサイトコーポレートPPAなどを展開する。電力小売では個人顧客17万人、法人1,600拠点超を抱え、年間供給量は7億kWhを超える規模に成長している。
同社の強みは、発電・販売の一体運用と、データに基づくリスク管理にある。電力は在庫を持てないため、需要予測、発電予測、市場価格変動への対応が事業の安定性を左右する。Q.ENESTは米国で培われた電力サービスの運用ロジックやデータ活用の知見を取り入れ、需給管理や市場取引に活用している。ENERICHでは、こうした知見を家庭用蓄電池の制御やVPP運用に応用する。
販売パートナー向けには、従来の機器販売時の一時収益に加え、継続的なインセンティブを導入する予定。顧客が電力料金プランを契約した後の電力使用量や、蓄電池から自家消費した電力量に応じて、販売店にも還元する仕組みを想定する。顧客数が増えるほど収益が積み上がるストック型のモデルとなり、将来的にはVPP参加によるインセンティブや販売店の認定ランク制度も組み合わせる計画。
ハンファジャパンにとって、ENERICHは価格競争から距離を置くための事業転換でもある。太陽光パネルや蓄電池は、単体では価格比較の対象になりやすい。同社は設備、電力契約、運用、保証、販売店支援を一体化し、導入後の価値創出で差別化を図る。グループの資本力や製品開発力、国内住宅市場での販売網、Q.ENESTの電力事業データを組み合わせることで、長期利用を前提としたサービスへ広げる。

■保守・AI提案ツールも拡充、現場支援を競争力に
ENERICHの普及を支える要素として、ハンファジャパンはアフターサービス体制の強化も打ち出す。従来の「壊れたら直す」受け身の対応ではなく、顧客や販売店の潜在的な課題を先回りして解決する「攻めのパートナー」を目指すという。同社は外資系メーカーとしては大規模な社員体制で、カスタマーサービス、コールセンター、PVモジュール保証、PPAサービスの4チームを運営しているが、会場ではいくつかのポイントが説明された。
蓄電池システムについては、中国の蓄電システムメーカーSolaX Powerとの戦略的パートナーシップを公表。SolaXは世界130カ国に蓄電システムを供給するメーカーで、ハンファジャパンは国内住宅市場での販売網や保守・保証体制を持つ。両社の強みを組み合わせ、外資系蓄電池に対して市場が抱きやすいアフターサービス面の不安を払拭する狙いがある。
事業モデルとしては、太陽電池とのセット販売を前提とする「ハンファブランドのENERICH蓄電池システム」と、単品・ハイブリッド販売を対象とする「SolaXブランドのオリジナル第2世代蓄電池システム」の双方をハンファジャパンが総代理店として扱う。保証書の発行、不具合対応、問い合わせ窓口は同社が一元的に担う。遠隔で原因の切り分けが難しい場合に備え、現場出動に対応するオンサイトサービス体制も整える。
保証面では、インターネット接続を条件に、蓄電ユニット、パワーコンディショナー、BMSを15年間まとめて保証する。オプションで20年保証にも対応。出張費や作業費、撤去工事費も含め、顧客が長期利用しやすい制度設計とした。初年度の発電シミュレーション保証も組み込み、実発電量がシミュレーション値を下回った場合の差分を保証する仕組みを用意する。

社会課題への対応として太陽光パネルのリサイクル・リユースにも取り組む。2030年代後半以降、使用済み太陽光パネルの排出増加が見込まれるなか、国内リサイクルパートナーとの提携や広域認定制度を活用したメーカー主導の回収モデルを検討する。米国ジョージア州ではグループとしてリサイクル工場の稼働を始めており、回収、処分、再利用を製造サプライチェーンに組み込む循環モデルの構築を進める。
販売現場の生産性向上に向けては、AIを活用した提案支援ツールも投入。年内リリースを予定する「PV MAP」「AUTO DRAFT」がお披露目された。PV MAPは、住所入力を起点にウェブ上の地図から住宅を特定し、AIが屋根形状や障害物を解析して太陽光パネルの配置案を作る提案書作成支援ツール。発電シミュレーション結果をA4のPDFレポートとして出力でき、商談の初期段階で顧客の関心を高める狙いがある。
AUTO DRAFTは、新築住宅向けのPV図面自動作成ツール。住宅図面ファイルを丸ごとアップロードすると、AIが立面図と平面図を判別・抽出し、屋根形状を読み取って見積もり用の設計図面を生成する。図面ページを手作業で切り出す手間や作図時間を減らし、販売店の見積もり対応を効率化する。いずれのツールもAIの精度を100%保証するものではなく、提案前の担当者確認や現場調査を前提とする。
ENERICHは、住宅用太陽光市場が「設置する時代」から「運用する時代」へ移るなかで、ハンファジャパンが示した次の成長戦略となる。設備を売って終わるのではなく、電力データ、蓄電池制御、電力市場、保証、販売店支援を重ね、家庭の電気を継続的に価値化する。電気代上昇、再エネ拡大、需給調整という市場環境を背景に、住宅1棟ごとの電力運用を束ねるモデルが広がるかが焦点となる。

〔参照〕
▷ハンファジャパン、ENERICH™(エネリッチ)のブランドアイデンティティを公開
▷ENERICHウェブサイト
▷ハンファジャパン、住宅用太陽光発電の提案業務を効率化する2つのAI搭載型Web支援ツールを発表
▷COMPANY PROFILE