【焦点】気候変動イニシアティブ:化石燃料依存から「地球の限界」へ―JCAS2026開催、再エネ・自然・資源循環の同時転換を問う

気候変動イニシアティブ(JCI)は10月2日、東京都内の国連大学で「気候変動アクション日本サミット(JCAS)2026」を開催した。会場とオンラインを組み合わせたハイブリッド形式で、国内外の企業、自治体、金融機関、NGOなどが参加。エネルギー危機と再生可能エネルギーへの転換、ネイチャーポジティブとサーキュラーエコノミー、複合課題に直面する企業の意思決定を軸に議論した。脱炭素を単独の環境課題としてではなく、エネルギー安全保障、自然資本、資源制約、経済競争力を含む社会・経済システム全体の転換として捉える姿勢が鮮明になった。
■化石燃料依存は「構造的な脆弱性」
開会あいさつでJCI共同代表の加藤茂夫氏は、2026年夏に日本各地で豪雨や台風による被害が相次いだことに言及。日本は気候変動の「被害者」である一方、温室効果ガスを排出する「加害者」でもあるとの認識を示した。中東情勢の緊迫化で化石燃料の輸入依存がエネルギー安全保障上のリスクとして顕在化しているとして、再エネ転換によるエネルギー安全保障、経済成長、脱炭素の同時実現を訴えた。
国連事務総長特別顧問のセルウィン・ハート氏も、気候変動と化石燃料依存という「二つの危機」を指摘した。日本にとってクリーンエネルギーへの転換は気候対策だけでなく、国家安全保障や経済の強靱性、競争力に直結すると強調。石炭からの段階的な脱却や再エネ、電力網への投資を加速するとともに、日本の資金力や外交力を生かして新興国・途上国のエネルギー転換を支える役割を求めた。
■「地球の限界」9項目のうち7項目を超過
基調講演では、プラネタリー・バウンダリー研究を主導してきたポツダム気候影響研究所所長のヨハン・ロックストローム氏がビデオ登壇した。世界は1.5℃を一時的に超える「オーバーシュート」が現実味を帯び、地球システムの安定性そのものが損なわれるリスクが高まっていると警鐘を鳴らした。
2026年版の評価では、地球システムの安定を支える9つのプラネタリー・バウンダリーのうち、気候変動や生物多様性、土地利用、淡水、窒素・リン、海洋酸性化、新規物質など7項目がすでに安全圏を超過したという。一方、流れを変える余地はなお残されており、太陽光や風力を中心とする再エネの拡大、電化、デジタル化、資源利用効率の改善を一気に進める必要性を示した。
東京大学グローバル・コモンズ・センターの石井菜穂子ダイレクターは、問題の根本に現在の経済システムがあると指摘した。地球の「安全な活動領域」に戻るには、エネルギーだけを脱炭素化しても十分ではなく、都市、サーキュラーエコノミー、食料を含む4つのシステムを同時に転換する必要があるとの研究成果を紹介した。自然資本を経済的な意思決定に組み込み、科学に基づく移行経路を描いたうえで、政府と企業、自治体など非国家主体が連携する仕組みが不可欠とした。
■米国、政治情勢が変わってもクリーン投資は続く
特別ゲストとして登壇した米国の非国家アクターネットワーク「アメリカ・イズ・オール・イン」のクリス・ウィート氏は、政治環境が変化する中でも、州や都市、企業によるエネルギー転換が続いている現状を紹介した。
データセンターや電化による電力需要の増加も背景に、再エネや蓄電池、電力網への投資需要は拡大しているという。政治的立場を超えて経済合理性や地域経済への効果を軸にクリーンエネルギーを拡大する動きが広がっており、連邦政府の政策だけで米国の気候変動対策を捉えることはできないとの考えを示した。
■再エネ、自然、資源循環を「別々に考えない」
後半は三つのパネルセッションが展開された。
第1セッションは「エネルギー危機と再エネ転換」をテーマに、E3G、NTTデータグループ、球磨村森電力などが参加。化石燃料への依存が供給不安や価格変動を招く中、再エネを気候変動対策だけでなく、エネルギー安全保障、経済競争力、地域のレジリエンスを高める手段として位置づけ、安定的で持続可能なエネルギーシステムへの移行を議論した。
第2セッションでは、ユニリーバ・ジャパン、キリンホールディングス、豊岡市が、ネイチャーポジティブとサーキュラーエコノミーを取り上げた。気候変動による生態系や水資源への影響が企業の原材料調達やサプライチェーンリスクにも直結する中、脱炭素、自然再生、資源循環を別々の施策として進めるのではなく、相互に価値を高める事業や地域づくりにつなげる可能性を探った。
第3セッションには日本生命、ツムラ、大東建託の経営層が登壇した。エネルギーの安定供給、自然資本、資源制約など複数の課題が同時進行し、時にトレードオフも生じる中、企業が何を優先し、どう判断するかが焦点となった。SBTiやTNFD、ISSBなどを単なる目標設定や情報開示の枠組みにとどめず、リスクと機会を可視化し、投資や事業戦略の意思決定につなげる視点を共有した。
サミットを通じて浮かび上がったのは、脱炭素だけを切り離して進める時代の終わりともいえる変化だ。エネルギー、自然、資源、地域、企業経営は相互につながる。科学が示す「地球の限界」を踏まえながら、個別の取り組みを社会・経済システム全体の転換へどう広げるか。再エネ導入量だけでは測れない、次の気候変動アクションが問われている。

〔参照〕
▷【10月2日開催】気候変動アクション日本サミット2026
【取材・協力】
株式会社オルテナジー
再生可能エネルギーの利活用を支援する総合エネルギー企業。太陽光発電や蓄電池のEPC(設計・調達・施工)、O&M(運用・保守)、PPA、コンサルティングなどをワンストップで展開する。発電設備のサイバーセキュリティ対策や遠隔監視などにも取り組み、企業の再エネ導入や脱炭素化を幅広く支援。