【ゼミ】環境省:建物オーナー向けZEBセミナー開催、宝輪・山陰合同銀行が既存建物の導入効果を紹介 ―補助金活用と20年間の総コストで判断、光熱費削減と企業価値向上を両立

環境省は7月17日、建物オーナーを対象としたオンラインセミナー「建物オーナーのためのZEB基礎知識及び事例紹介【導入検討に役立つ実践ポイント】」を開催した。ZEBの基本的な考え方やプロジェクトの進め方を解説するとともに、宝輪と山陰合同銀行による新築・既存建築物のZEB化事例を紹介した。設備更新を単純な機器交換で終わらせず、補助金や光熱費削減を含む長期的な費用対効果から検討する重要性を示した。
開会挨拶では、環境省住宅・建築物脱炭素化事業推進室が、建築物分野の省エネルギー化を脱炭素社会の実現に向けた重要課題に位置付けた。エネルギー価格や建設費が上昇する一方、建物オーナーからは「ZEBという言葉は知っているが、具体的な進め方が分からない」との声も多い。セミナーは、実際の事例や支援制度を通じ、導入に向けた最初の一歩を後押しする狙い。
ZEBは、快適な室内環境を維持しながら、高断熱化や高効率設備による省エネと、太陽光発電などの創エネを組み合わせ、年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロに近づける建築物を指す。削減率に応じて『ZEB』、Nearly ZEB、ZEB Ready、ZEB Orientedの4段階に区分されている。
創エネを含めて年間消費量を100%以上削減する『ZEB』に対し、ZEB Readyは創エネを要件とせず、省エネのみで50%以上の削減を目指す。屋上面積や立地条件から太陽光発電設備を十分に設置できない都市部や既存建築物では、ZEB Readyが現実的な選択肢となる。
事務局のヴォンエルフは、ZEB化の効果として、光熱費削減、室内環境の改善、不動産価値や企業価値の向上、災害時の事業継続性向上を挙げた。延べ床面積1万平方メートル程度の事務所で50%の省エネを達成した場合、光熱費を年間40~50%程度削減できる試算も紹介した。
プロジェクトは、基本構想、基本設計、実施設計、施工・BELS認証取得の順に進められる。初期段階で目標とするZEBランクを決め、概算の省エネ計算や補助事業の活用可能性を確認することが重要となる。設計・施工段階では、ZEBの受託実績を持つZEBプランナーや施工会社との連携が欠かせない。
既存建築物では、図面と現場の相違、稼働中の施設における工事調整、テナントや従業員との合意形成など、新築とは異なる課題も生じる。自社、ZEBプランナー、施工会社が早期から情報を共有し、一体的な推進体制を構築することが成功のポイントとなる。
■宝輪と山陰合同銀行、既存改修で省エネ効果を実証
宝輪は、三重県内の津営業所とテナントビル「HOWAビル津中央」の既存改修事例を紹介した。導入の契機は、約70台の空調設備が更新時期を迎え、部品供給の終了や故障の増加によって数千万円の更新費用が見込まれたことにあった。単純な空調更新ではなく、補助金を活用した建物全体のZEB化を選択した。
HOWAビル津中央は経済産業省の補助事業を活用し、既存テナントビルとしてZEB Readyを取得した。津営業所は環境省の補助事業を利用し、Nearly ZEBを実現した。導入前には、役員や部門長を対象に専門家を招いた勉強会を開催し、ZEB化を地域貢献や環境経営につながる投資として社内で共有した。
工事中は、テナントへの個別説明や工程調整、図面に記載のない過去の改修箇所への対応などに苦労した。一方、改修後は津営業所の消費電力を約60~70%削減した。テナントからも電気料金の低下を実感する声が寄せられた。先進事例として外部評価や企業認知も高まり、採用や取引先との関係強化にも波及した。
山陰合同銀行は、安来支店、浜田支店など4支店におけるZEB化を紹介した。安来支店は建て替えに伴い、高断熱化、高効率設備、太陽光発電を組み合わせ、一次エネルギー消費量を101%削減する『ZEB』を取得。このほか空調更新に合わせた既存改修によりNearly ZEBを実現した事例を紹介。
同行が社内合意形成で重視したのは、初期投資額だけでなく、補助金と光熱費削減を含めた20年間の総コスト比較。通常の空調更新とZEB改修を比較した試算では、初期費用が高くても、補助金と運用費削減を加味すると、20年間の総コストはZEB改修が下回った。
既存支店では、高効率空調、LED照明、全熱交換器、太陽光発電、BEMSなど、実績のある汎用技術を組み合わせた。改修後の電気使用量は前年同期比で平均15~30%減少した。効果を実測データで確認できたことで、その後の店舗改修に対する行内承認も進めやすくなったとする。
■設備更新を好機に、補助金活用と20年間の総コストで判断
環境省は関連する補助事業として、建築物のZEB化・省CO2普及加速事業や脱炭素ビルリノベ事業などを説明した。既存建築物を対象とする制度には、ZEB水準に至らない30~40%程度の省エネ改修や、設計費を支援対象とするものもある。経済産業省も、大規模建築物向けのZEB実証事業や、既存建築物の診断・計画策定を支援する制度を展開する。
セミナーを通じて浮かび上がったのは、空調や照明などの更新時期をZEB化検討の好機として捉えること。設備が故障してから同等品へ交換するのではなく、更新計画の早期段階から省エネ計算や補助制度を調査することで、選択肢を広げられる。
建物オーナーには、初期費用だけで判断せず、補助金、光熱費、維持管理費を含む長期的な総コストで比較する姿勢も求められる。ZEB化は省エネルギー設備への更新にとどまらず、不動産価値、働く環境、企業ブランド、脱炭素経営を一体的に高める建物投資となりつつある。