【ゼミ】環境省:自治体ZEB推進へ実践セミナー開催、湖西市・上郡町の事例から実践的アプローチを共有。老朽施設の改修・新築に脱炭素と防災の視点

環境省は7月8日、地方公共団体の公共施設担当者を対象にしたオンラインセミナー「地方公共団体で進めるZEBプロジェクト事例に学ぶ実践アプローチ」を開催した。公共施設の老朽化、エネルギーコストや建設費の上昇が進むなか、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)化を具体的にどう進めるかをテーマに、実務上の課題と解決策を共有した。
セミナーは、環境省の開会挨拶で始まり、事務局を務めるヴォンエルフが公共建築におけるZEBプロジェクトの進め方と普及状況を解説した。今回は応用実践編として、ZEBの基礎説明よりも、基本構想、基本計画、基本設計、施工、運用の各段階で自治体が直面しやすい論点に重点を置いた。
ZEBは、省エネと創エネを組み合わせ、建物の一次エネルギー消費量を削減する取り組みを指す。削減率に応じて「ZEB」「Nearly ZEB」「ZEB Ready」「ZEB Oriented」などに分類される。建築物省エネ法の基準は段階的に引き上げが進んでおり、新築公共施設におけるZEB化は、計画段階から織り込むべき要件になりつつある。
一方、公共建築物での普及は道半ばにある。新築建物のZEB取得面積は増加傾向にあるものの、既存建物を含むストック全体でみればZEB化済みの割合は限定的。特に地方公共団体の建物では民間に比べて進捗が遅く、学校や公民館など床面積比率の高い公共施設での取り組み拡大が課題となっている。
■上位計画と庁内連携、初期段階の設計が成否を左右
前半では、公共建築物のZEB化は早い段階から庁内横断の体制をつくる重要性が示された。基本構想段階では、新築か改修か、目指すZEB水準、財源、施設の優先順位などを中長期の上位計画に位置付ける必要がある。地方公共団体実行計画などに「新築はZEB Readyを目指す」といった性能目標を明記すれば、個別施設の検討時に判断軸となる。
課題として多く挙がるのが、追加コストへの懸念や技術職員の不足だ。これに対し、先行自治体へのヒアリング、補助金情報の更新、ZEBプランナーやコンサルタントの活用が有効と説明された。既存改修では図面が不足している例もあるため、現地調査を通じた簡易図面化やCAD化も重要となる。技術職員が少ない自治体では、部署横断の「ZEB推進チーム」を設ける方法も紹介された。
基本計画段階では、施設の規模、性能、スケジュール、概算事業費を整理し、ZEBの実現可能性を検証する。発注仕様書に省エネ計算やコスト比較の実施を明記し、プロポーザル段階で補助金申請を見据えた工程提案を求めることが重要となる。設計者の経験値にも差があるため、ZEB実績や目標BEI値を評価・仕様に反映する工夫が求められる。
断熱、開口部、空調、換気、照明などがZEB達成に大きく影響する。建物用途ごとのエネルギー消費傾向を踏まえ、省エネ計算を重ねながら仕様を固める必要がある。改修では施設利用を止めにくいため、指定管理者や利用者との調整も欠かせない。
事例紹介では、静岡県湖西市が消防防災センターの整備を取り上げた。同市は2050年カーボンニュートラルを見据え、令和3年にゼロカーボンシティ宣言を表明。新施設の整備にあたり、ZEB Ready取得を目指した。複数年事業で完成期限もあったため、環境省補助金の活用は断念したが、脱炭素推進事業債を財源として活用した。
湖西市では、担当者が建築・設備の専門知識を十分に持たない状態から検討を始めた。消防署という用途上、大空間の車庫、24時間稼働のサーバールーム、出動動線の確保など、空調負荷や換気量が増えやすい制約もあった。空調ゾーニングの最適化、高効率機器の採用、外気導入量の制御などを組み合わせ、最終的にZEB Readyを達成した。
庁内調整では、性能、コスト、脱炭素、防災機能を一体で説明し、ZEB取得そのものが目的化しないよう留意した。防災拠点としての機能強化や財政メリットを合わせて示すことで理解を広げた。完成後は太陽光発電や省エネ機器により防災性が高まり、他自治体や民間からの視察・問い合わせも増えた。
■既存庁舎改修も現実解に、補助制度と運用改善を組み合わせ
兵庫県上郡町は、築34年の本庁舎を既存改修でZEB Ready化した事例を紹介した。外壁タイルの剥落や空調故障などの課題を抱えるなか、町は長寿命化の方針から新築ではなく改修を選択。補助金を有効に活用できる手法としてZEB化を位置付けた。ZEB実績の豊富なコンサルタントを起用し、省エネ診断、改修方針、補助金申請を一体的に進めた。
議会や庁内に対しては、空調故障という具体的な課題、改修による維持管理費削減、国の財政支援を組み合わせて説明した。スケジュールが厳しいなか、公募型プロポーザルによる設計施工一括発注、いわゆるデザインビルド方式を採用。副町長を中心とした庁内調整とキーパーソンの存在が、期間内の施工完了につながった。
既存建物ならではの制約もあった。太陽光パネルを十分に設置できる場所が限られ、ZEB Readyが現実的な到達点となった。中央熱源方式から個別空調への変更に伴う天井内配管工事、既存照明デザインの制約なども生じた。竣工後は設計施工者が3年間のコミッショニングを実施し、電力量だけでなく室内環境と電力消費量の関係も検証した。
トークセッションでは、ZEB化の成否を分ける要因は技術だけではないとの見方が共有された。補助事業や地方債などの財源、外部専門家との連携、上位計画への位置付け、庁内合意形成が実務上の鍵を握る。脱炭素のための追加投資としてではなく、老朽化対策、空調更新、防災機能強化、維持管理費低減を同時に進める手段として捉える必要がある。
セミナー後半では、環境省の関連補助事業も紹介された。「建築物等のZEB化・省CO2普及加速事業」では、新築・既存建築物のZEB化に資する設備工事費や、既存建築物の初期検討費用を支援する。「業務用建築物の脱炭素改修加速化事業」は、既存建築物の設備費や工事費を支援し、実施設計なども補助対象に含める。「公共施設の脱炭素化・レジリエンス強化事業」は、防災拠点や避難施設への再エネ、省エネ設備、蓄電池などの導入を後押しする。
公共施設は、行政サービスの拠点であると同時に、災害時には地域の避難・復旧拠点にもなる。老朽施設を単に修繕するのではなく、省エネ、再エネ、防災、維持管理費低減を一体で進める視点が求められている。今回のセミナーは、ZEBを技術的な到達目標ではなく、自治体経営と公共施設マネジメントの実践課題として捉え直す機会となった。