【独自】「地域脱炭素」は“再エネを増やす”だけじゃない。需要から始める成長戦略―環境省 近畿地方環境事務所 脱炭素推進グループ 鈴木啓太 室長に訊く地域脱炭素化必達への処方箋

いま日本の脱炭素・エネルギー政策は、大きな転換点に立っている。国は2035年度に温室効果ガス60%削減、2040年度に73%削減という野心的な目標を掲げたが、その達成のカギを握るのが「地域脱炭素」であることは言うまでもない。
ただ、全国一律の制度だけでは限界があり、地域が主体となって再エネ導入や省エネを進め、経済や暮らしと結びつけながら脱炭素を加速させていく――その最前線に立つキーマンの一人が、環境省 近畿地方環境事務所 地域循環共生圏・脱炭素推進グループの鈴木啓太室長である。
曰く「地域脱炭素は、単に再エネを増やす話ではない」。むしろ本質は、地域の需要からエネルギーを設計し、民間投資が回る市場をつくる“成長戦略”だという。FIT/FIP制度依存の再エネ拡大から、自家消費やPPAを軸にした自立電源化へ。自治体、地域企業、住民が一体となり、エネルギー・経済・防災を同時に強くする。地域から脱炭素社会を実装するための処方箋とは何か。
■いま、なぜ「地域脱炭素」なのか?
――本日はよろしくお願いします。まず「地域脱炭素」とは、何を目指す取り組みなのでしょうか。
ひと言でいうと、地域が主役になって、再エネや省エネを“自律的に増やしていく仕組み”をつくることです。単に「CO2を減らしましょう」という環境の話に留まらず、地域の経済循環、防災、暮らしの質向上まで含めて、地域の課題解決と成長につなげる。それが地域脱炭素の狙いです。
――背景として、国全体の目標も大きく関係しますね。
そうですね。日本は2050年までの脱炭素社会実現に向けて、温室効果ガス削減目標として、2013年度比で2030年度に46%減、2035年度に60%減、2040年度に73%減を目指しています。1.5℃目標に整合的で、かなり野心的な水準です。目標実現のためには、全国一律の政策だけでなく、地域に根差した取り組みの積み上げが不可欠になります。

■排出の現実、「最大の山」は電力由来
――日本の排出構造を見たとき、地域で効きやすいポイントはどこでしょう。
日本の温室効果ガス排出で単一分野として大きいのが電力起因のCO2です。だからこそ、地域脱炭素で重要なのは、再エネ電源への転換を進めること。特に、再エネを「主力電源」にしていく方針は一貫しています。
――ただ、再エネを増やすのは簡単ではない印象もあります。
最大の課題は、地域共生を前提にした“自立電源化”です。これまではFIT(固定価格買取)などの制度に支えられて導入が進んだ面もありました。今後は国民負担に依存し続けるのではなく、民間投資で回る形――つまり、自家消費型や相対取引(PPAなど)を軸に、需要家ありきで再エネを増やす方向へ移っていく必要があります。

■「地域脱炭素の本質」:需要創出アプローチ
――“需要家ありき”というのは、地域脱炭素のキーワードですね。
まさにそこが本質です。地域脱炭素は、言い換えると需要創出アプローチです。「開発すれば売れる再エネ」から、「使ってくれる人がいるから作る再エネ」へ。これが進むと、再エネが制度ではなく市場の中に組み込まれていく。つまり自立電源化が加速します。
――その“需要”を地域でどう作るかが勝負になる。
そうです。イノベーション待ち、価格が下がるのを待つ――そういう受け身の姿勢ではなく、“いまある技術と経済条件の中で最大限どう増やすか”を官民で試行錯誤して形にする。それが地域脱炭素です。

■「投資タイミングは“いま”」と言える理由
――再エネ投資は、先送りしたくなる心理もあります。材料費高騰なども聞きます。
もちろん事業環境の厳しさはあります。ただ一方で、電力価格は長期的に見ても上昇トレンドですし、非化石価値(環境価値)も今後高くなっていくことが確実視されます。PPAなど相対取引で再エネ導入を進めると、長期固定価格で環境価値付きの電力を確保できる。資源価格のボラティリティも抑えられ、エネルギー自立やレジリエンスも高まります。
――制度変更が多い、という声に対しては。
確かに過渡期なのでルール変更は起こり得ます。ただこのルール変更は、大局で見れば、自家消費や相対取引による非FIT電源が“当たり前”になる社会を目指しています。なので、需要家はシンプルに考えれば良く、逆に投資を先延ばしするほど、逆に電力価格や環境価値高騰のリスクを抱え込む可能性がある。だから「投資すべきタイミングは今」と考えています。

■地域脱炭素の「社会経済的な意義」は地方創生のど真ん中
――地域脱炭素は“地域の成長戦略”でもあると。
はい。自治体、地域企業、市民が主役になって地域資源を活かすことで、地域でお金が回る仕組みをつくれる。その結果、防災力向上や暮らしの質向上にもつながる。地域脱炭素は「環境施策」というより、地域の課題をまとめて解くためのパッケージだと思っています。
――事業側から見てもメリットは大きい?
大きいですね。地域脱炭素は、例えば小売り事業者目線で考えると、一定量の長期安定的な需要(=収入)を確保できるビジネス機会と捉えることができます。与信の向上にもつながります。ただし、意思決定のスピードや実務負担、予算制約など、現場には自治体対応ならではのハードルを乗り越える“汗”をかく覚悟は必要です。

■「脱炭素先行地域」と「重点対策加速化事業」
――地域脱炭素の現在地を、制度面から整理するとどうなりますか。
大きくは二つです。一つは、脱炭素先行地域。もう一つが、重点対策加速化事業です。
脱炭素先行地域は「エリア」の脱炭素を狙い、再エネや蓄電池、自営線なども含めて同時多発的に大規模事業を進めます。原則2/3の交付率で、5年の事業期間で最大50億円規模の支援となります。脱炭素をツールとして地域課題を解決する事業を創出し、全国に広げていく、いわば“脱炭素ドミノ”の起点づくりが目的です。
重点対策加速化事業は「拠点」の脱炭素を広く進める仕組みです。自家消費型太陽光などを、住民・企業に幅広く普及させます。住宅は7万円/kW、事業所5万円/kW、蓄電池は1/3の補助が出ます。5年の事業期間で最大10~15億円規模。意欲的な民間需要家の行動をどんどん後押ししていきます。

■「依存」「座組」「実力不足」という3つの罠
――地域脱炭素は停滞しているのではないかと言われています。
地域脱炭素は、関係者がそれぞれやるべき汗をかけば必ずできます。ただ、ご指摘の通り現実には停滞案件が多い。その要因を整理すると、概ね3つです。
依存:自治体の意欲はあるが知見や役割認識が不足して事業者任せになりがち。事業者は地域事業への役割認識が薄く、環境が整うまで動かない。要はお見合いをして時間を浪費しています。
座組の不適切さ:例えば、住宅屋根にPVを広げたいのに、事業者は野立てしか経験がない。営業が必要なのに、現地に社員がいない。蓄電池や余剰電力の活用が必要なのに、アグリゲーションのライセンスがない。こういう“噛み合わなさ”に起因して事業が止まります。
実力不足:需給管理の内製化ができずコストが下がらない。調達・施工のコスト低減が甘い。バイオマス事業の上流から下流までビジネス全体を組めない。結果、大型補助があるにもかかわらず採算が取れないとなって頓挫することが生じます。

■停滞から抜ける「3点セット」①地域理解 ②需要家確保 ③事業採算
――停滞からの脱却には何が必要ですか。
前提として、自治体が目指す地域づくりに向けて「やり遂げる」という強い意思があること。そのうえで、地域理解・需要家確保・事業採算の3つを揃える努力が必要です。
①地域理解:自治体が“主体”になる
説明会や地域協議会など、住民・地権者との対話は自治体が主体的に進めるべきです。ただし、事業者も同行して「顔の見える関係」をつくると効果が高い。ここは基本かつ極めて重要なポイントです。
②需要家確保:誰が汗をかくのかを決める
需要家が住民なら、自治体の周知(市報、回覧板、説明会)を“何度でも”。加えて販売事業者が営業できる体制づくりが効きます。需要家が民間事業者なら、本質的には営業なので事業者が汗をかく。地銀系事業者と組んで営業力を補う例もあります。自治体職員の同行が安心感になるケースもある。また、公共が需要家となって再エネ投資を呼び込み、その後民間へ波及させるという、地域脱炭素における公共ならではの新たな役割もあります。
③事業採算:ここが根幹。場合によっては“座組を変える”
地域脱炭素は「具体の事業」の積み上げです。採算性確保がないと事業ができないので、採算性は当然のことながら根幹となる部分です。とはいえ、避難所など小規模需要の施設に太陽光+蓄電池を多く入れたい、といった社会的には重要なですが採算とは相性が良くニーズがあります。だからこそ、このニーズを満たすための事業の工夫やコスト効率的に実施できる体制が必須で、必要なら座組を根本から組み替えることも選択肢になります。

■PPAは“条件次第で厳しい”。だからこそ競争力が必要
――導入コストがネックであれば初期費用ゼロ円のPPAモデルがあります
たしかにPPAは有効な手段ですが、例えば余剰が多い(5割程度)など条件によっては、補助があっても採算が厳しいケースがあり得ます。一方で、施工単価の低減、金利条件、運転維持費など、合理化の余地もあります。つまり、補助に安易に頼らず、事業者自身の競争力で成立させる力が重要です。
――先行地域のように補助率が大きい場合は?
補助率が2/3のように大きい場合、収益性が相当改善する可能性があります。だからこそ、蓄電池併設など付加価値を追求して、需要家還元や系統負荷対策など、次の一手まで設計できる余地が広がります。


■住宅・事業所の屋根が第一候補。でも“自動的には増えない”
――太陽光の導入先として、どこが最重要でしょう。
地域共生の観点からも、まずは屋根です。住宅屋根も事業所屋根も、最優先の候補になります。ただし誤解があって「補助を出せば勝手に増える」と思われがちですが、そうではありません。太陽光は“説得商材”。周知、説明、営業体制――関係者の努力があって初めて伸びます。
――住宅なら、重点対策加速化事業のほうが現実的という見方もありますね。
行政が面的にエリア指定して一気に導入を図る先行地域の手法より、やる気のある人が順次導入できる重点事業のアプローチのほうが現実的な場面も多いと考えています。

■次の有望分野は駐車場と農地、そして「最適化」
――屋根以外で、伸びしろがある分野は?
ソーラーカーポート(駐車場)とソーラーシェアリング(農地)は有望と考えています。駐車場は構造制約が少なく需要地に近いので、コスト効率的に施工できれば可能性は拡がります。利用者にとっては日除け雨除けにもなる。農地は地域理解が不可欠ですが、架台の工夫も進み、ポテンシャルは大きい。今は丁寧に優良事例をつくっていく時期だとみています。
――「エネルギー利用の最適化」が“今後の中心”?
はい。太陽光は偏在性が小さく全国で使えます。だからこそ、太陽光+蓄電池の活用最大化がカギになります。さらに、ヒートポンプやEVなどの調整力リソースを束ねて活用する。マイクログリッドに留まらず、より広い事業者を巻き込む形にステップアップしていく必要があります。

■重点対策加速化事業の“効かせ方” 執行率の差は「設計」と「熱意」で決まる
――重点対策加速化事業は、全国津々浦々で使えるツールだと。
その通りです。潜在ニーズは非常に大きい。自治体は施策強化に、事業者は販売促進に、ぜひ活用してほしい。一方、自治体ごとに補助対象や要件が異なるので、販売側からすると使い勝手が悪い面もあります。ここは政策側と事業側のギャップを認識したうえで、執行を確保する工夫が重要です。
――具体的には?
たとえば、「補助金太陽光のメリットを知らない/知られていない/知っていても手続きが煩雑で使われない」といった課題に対して、経済性分析、広報資料の整備、協力宣言事業者制度など、打ち手はあります。そして最後は、身もふたもないですが、自治体側の熱意の差が執行率の差になることが多い。

■量的拡大フェーズへ、都道府県の役割も増す
――今後の展望を教えてください。
今は、先行地域や重点事業で得られた知見を活かしながら、補助依存度を下げつつ、全自治体に広げていく“量的拡大フェーズ”に入っています。小規模自治体を支える主体として、都道府県や政令市など“実力ある自治体”によるサポートが重要になります。
――都市部と地方部のギャップも課題になりそうです。
地方は需要量が小さい、都市は需要に見合う再エネ供給エリアが少ない、という問題が起こり得ます。だから両者を連結させるマッチング機能が重要で、都道府県の新たな役割として期待される部分です。
■地域発の“試行錯誤”が脱炭素社会をつくる
――最後に一言お願いします。
地域脱炭素は、「いつか技術が何とかしてくれる」ではなく、今の技術と経済事情で最大限導入するために、官民で試行錯誤して答えをつくっていく取り組みです。脱炭素社会の実現まで、成長と脱炭素を同時に実現するためのチャレンジは続きます。地域発の挑戦が、次の標準をつくっていくはずです。産官学民一体となって脱炭素社会の実現をめざしていきたいと思います。
――ありがとうございました。
〔参照〕
▷【資料】地域脱炭素の実現に向けて
▷脱炭素先行地域
▷重点対策加速化事業
▷近畿地域における地域脱炭素の取り組み