【ゼミ】橋本総業:HAT建築設備セミナー「災害に強い住宅・住宅設備」テーマに第126回開催

橋本総業は2月9日、第126回HAT建築設備セミナーを開催した。テーマは「災害に強い住宅・住宅設備の検討」。豪雨や地震の頻発で停電・断水が長期化しやすい環境が続くなか、避難所に依存しすぎない在宅避難・分散避難を成立させる住宅性能と設備計画が論点となった。来場とオンラインのハイブリッドで実施し、開催後のオンデマンド配信も用意した。開会挨拶は橋本総業の橋本政昭会長が行った。
■在宅避難を支えるのは「壊れない」から「機能し続ける」へ
第一部は関東学院大の山口温教授が登壇。空気調和・衛生工学会の「災害に強い住宅・住宅設備検討小委員会」がまとめた報告書や関連研究を軸に、災害後も生活を継続できる住宅像を整理した。構造安全の確保を前提に、電気・水・排水・換気などが止まった局面でも最低限の居住機能を維持できる設計と設備が求められるとの問題意識を示した。
近年の災害は、水害・土砂災害が比重を増し、局地的大雨による内水氾濫も増加傾向にある。住民側のリスク認知が追いつかない局面もあり、浸水想定区域内の居住者でも水害リスクを十分に意識していない例、住宅購入・建設時に説明を受けた割合が低い例を取り上げ、リスク情報の事前提示と説明の徹底が鍵になるとした。
災害時の避難選択についても、浸水想定と住宅形態を踏まえ「自宅に残れるか」「垂直避難か」「避難が必要か」を判断する枠組みを提示。避難所は受け入れ制限や三密回避などの課題が残り、在宅避難を選べる住環境の整備が重要になるとの視点を強調した。停電・断水は衛生面の困難を直撃し、入浴や手洗い、トイレ、洗濯などに影響が及ぶ。情報取得の手段となるスマホの充電も、停電の長期化で制約となりやすい。
事例として、台風19号で浸水被害を受けた川崎市のタワーマンションを紹介。敷地内からの浸水が設備系統に影響し、受変電設備の停止がエレベーターや給排水の長期停止につながった。集合住宅は縦動線と設備依存度が高く、被災時の生活影響が増幅しやすい点が浮かび上がる。戸建てでも、換気口からの浸水、排水管逆流、飛来物による開口部破損、水圧で窓が開かない、浮力の影響など、具体的な課題が並ぶ。
対策は「浸水させない」段階と「浸水を前提に被害を抑え早期復旧する」段階に分け、基礎高の確保、開口部の止水、下水逆流防止、分電盤・コンセント位置の見直し、室外機を含む設備機器の高所設置、透湿防水シートの扱い、排水経路の確保などを列挙。太陽光・蓄電池・EV活用で電力を確保しつつ、断熱性能向上で暖冷房に依存しにくい住環境を整える方向性も示した。
災害対応設備は「使える設計」だけでなく「使いこなせる説明」まで含めて成立するとの指摘もあり、設計者側の引き渡し時説明や、集合住宅での訓練・ワークショップなど運用面の整備も課題に挙がった。

■完全オフグリッドは難度高く、現実解は「自給+多重化」
第二部は信州大の高村秀紀教授が「オフグリッド住宅の可能性」をテーマに講演。まず、首都直下地震想定では電力より上下水道・ガスの復旧が長期化しやすい一方、水害では地中インフラへの影響が相対的に小さく復旧が短い例もあるとして、災害種別で備えの優先順位が変わる点を整理した。
オフグリッドの現実を示す実測として、長野県塩尻市の事務所(太陽光6.6kW、蓄電池12 →24kWh)のデータを提示。中間期は自家消費中心の運用が成立しやすいが、冬季は日射量不足に加え、暖房や凍結防止などで需要が増え、系統からの購入電力量が残る傾向が見えた。太陽光や蓄電池を増やせば自給率は上がるものの、増設には頭打ちがあり、日常生活を前提に「電線を切って完全自給」を狙う設計は現実的な難度が高いとの見解を示した。一方、災害時は平時の電力消費を前提にしないため、最低限の負荷に絞れば太陽光・蓄電池で継続しやすい余地がある。
住宅側の検討として、燃料電池(最大700W)と太陽光の供給割合、太陽光+蓄電池の自家消費率の例を示し、電源構成の「見える化」を進めた。さらに、同一仕様(断熱・設備を一律)の住宅群でも、居住人数や住まい方の違いで電力消費が大きくばらつく実測を提示し、設備容量の一律設計の限界を指摘。オフグリッド検討には、住まい方を含む需要の見積もり精度が不可欠になる。
講演の帰結は、単一エネルギー源への依存を避け、複数の選択肢を組み合わせる「多重化」にあった。太陽光+蓄電池の自立運転コンセントに給湯・暖房を接続し、LPガス、カセット燃料、PHEV/EVなどを併用すれば、災害時の継続性が高まる。事例として、風力+太陽光+蓄電池+薪ストーブを備え、近隣10世帯の避難先として鍵を共有する山間部住宅も紹介。地域の避難インフラを補完する発想が、設備計画の先にある「社会実装」の形として示された。
終盤は、電源だけでなく「排水・衛生」を含むレジリエンスの論点へ広げた。長野市のトイレトレーラーは、微生物処理やろ過、オゾン・UVで再生した水を循環させ、上水・下水に依存しにくい運用を狙う。太陽光と蓄電池も備え、平常時は系統・上下水に接続し、非常時は自立運転に切り替える設計思想となる。住宅の災害対応は、電気・熱・水・排水を一体で捉え、住み続けられる条件を積み上げる段階に入ったのかもしれない。
〔参照〕
▷関東学院大学 建築・環境学部
▷信州大学工学部 建築学科 高村研究室
▷橋本総業