【探訪】小川電機:地域密着の老舗商社が挑む、電材物流DXの最前線―“セルフチェックアウト型”無人倉庫が門真に誕生。

大阪・門真。駅から徒歩15分、門真インターチェンジ近くの一角に、一見すると周囲と変わらない、ひときわ静かな建物が立つ。小川電機・守口営業所である。9月30日、この地で“アジア初”となるセルフチェックアウト型の無人倉庫が公開された。
「扉は顔認証かICカードで開きます」ー。
案内スタッフが言うと、目の前の扉が解錠された。中には整然と並ぶ資材棚。人の姿はない。来場者が端末を手に取り、NFCタグをスキャンすると、画面に商品情報が表示され、購入手続きが数秒で完了する。伝票も印鑑も不要——。24時間365日、好きな時間に資材を受け取れる新しい仕組み。倉庫内の様子は通路毎に設けられた監視カメラでモニタリングされている。
近年、電設資材業界も例外ではなく、人手不足が深刻化している。従来の有人倉庫では営業時間の制約がネックとなり、夜間や休日の現場対応が難しい。現場の声に応えるために、同社は「セルフサービス型倉庫」という新たな構想を描いた。守口営業所では、約1,000点の商品が登録され、ユーザーは夜間や休日でもセルフで受け取りが可能。
「業界を進化させていく」——その想いが、テクノロジーとの出会いを後押しした。
■ エストニア発の技術が支える“現場起点のDX”
この無人倉庫システムを支えるのは、エストニア発のスタートアップ企業Invendor(インベンダー社)。顔認証とNFCカードによる二要素認証で入退室を管理し、在庫照合から決済までを完全ペーパーレスで行う。ヨーロッパ15カ国以上で導入実績があり、今回が同社としてアジア初の事例となった。
狙いは単なる省人化ではない。小川雄大社長は「当社にとって働き方改革の一環であると同時に、日中の業務効率化と、お客様の利便性向上を目的としたもの」と語る。
倉庫業務を自動化することで、社員はより創造的な提案活動や顧客対応に時間を割ける。一方、利用者にとっても「伝票記入なし・待ち時間ゼロ」のスムーズな受け取り体験が実現する。“人を減らすDX”ではなく、“人の時間を増やすDX”——。同社の挑戦は、働き方改革の文脈につながる。

■ 門真から全国へ、物流の未来図を描く
大阪・阿倍野に本社を構える小川電機は、近畿圏の電設資材流通を支えてきた地域商社。近年、第二種電気工事士等の資格取得やスキルアップに貢献する動画学習サービス「DENDENアカデミー」の開設やZEB Ready 認証を取得した最先端オフィスを神奈川県に新設するなどDX化だけでなく脱炭素分野への展開も強化している。
地域密着企業が自ら先陣を切り、現場発のDXモデルを具現化した意義は大きい。「DXは都会の話ではなく、現場から始まる」——。守口営業所の取り組みは、その象徴といえそうだ。
今後、小川電機はInvendor社の日本国内正規代理店として、同システムの導入支援も進めていく方針。門真から始まった挑戦が、やがて全国の電材物流を変える日も遠くないのかもしれない。

インベンダー社ヨーナス・ピュヴィ社長と小川電機 小川雄大 社長 (右)
〔参考〕
▷小川電機