【独自】 第4回「離島シンポジウム2025」開催:日本屈指の脱炭素先進地域 宮古島から全国波及なるか!? ―産官学民の業界関係者200名超が参集―
宮古ブルー。白い砂浜、蒼い海―。その美しさから世界的なリゾート地として年間100万人が訪れる南国。ゆったりとした時間が流れる。然しながら、脱炭素・カーボンニュートラル領域においては日本全国屈指の再エネ活用先進地域であることが知られる。5月15・16日の2日間にかけ、宮古島の脱炭素化を推進するネクステムズは、JTAドーム宮古島(沖縄県宮古島市)にて「離島シンポジウム2025(みゃーく会議)」を開催した。全国から200名を超える産学官の関係者が駆けつけ、長きにわたる実践的な知見と最新技術が共有された。
■宮古島に見る日本の縮図
華やかな印象をもつ宮古島。東京から飛行機で約3時間。本土から約2000km離れたこの島は人口約5.5万人。四方を海に囲まれた隆起珊瑚礁からなり宮古島を中心に大神島・池間島・伊良部島・下地島・来間島の6つの島で構成される。東京23区の3分の1に相当する約205㎢の面積で、タクシードライバーによれば「約8-10時間程度で1周できる」という。平良という繁華街を除き一体はサトウキビ畑が広がる。リゾート開発ラッシュで土地が高騰するなど一見すると活況な地域ではあるが社会インフラに課題がある。
生活基盤となるエネルギーは石油・LPガス等を調達することで賄われ自給率は約3%(2016年時点)と試算されている。沖縄本島から300km離れていることから送電線がない独立電源。台風や落雷で数時間〜数日停電するケースもある。上下水インフラについては、河川がなく石灰岩層に降った雨水を地下に貯留し、揚水して浄水処理する方式(地下ダム)が昭和から平成にかけてようやく構築されるなど過酷な環境だったといえる。
少子高齢化も進む。観光業が盛んとはいえ飲食店には東京・愛知・広島など本土からリゾートバイト・短期雇用者として、または移住により余生を営むヒトも少なくない。翻れば、「内地」における大都市圏では労働人口に占める海外スタッフが増加傾向にあり、我が国全体を見渡せばエネルギー自給率は高くない。目線を上げれば宮古島には日本の縮図がある。

出典:ネクステムズ資料より
■太陽光発電+エコキュート+蓄電など大規模初期費用ゼロ円モデルの先駆け
これら課題解決をめざし立ち上がったのがネクステムズの比嘉直人社長である。今から約7年前に「宮古島市全島EMS実証事業」を展開したのがはじまりである。元大手電力会社出身で生粋のエンジニアでもある。
第一弾の実証では宮古島市内の市営住宅40棟に太陽光発電とエコキュートを無償設置し、自家消費型売電や温水販売を構築。ネクステムズが日新システムズと共同開発した「屋外型IoTゲートウェイ」でエネルギー機器を統合制御。余剰電力は沖縄電力と相対契約で取引するなど非FIT型のエネルギーサービスを実現した。
この先進事例は、宮古島市・宮古島未来エネルギー(MMEC)・ネクステムズ・三菱UFJリースの4者が連携して進める「再エネサービスプロバイダ(RESP)事業」として一般財団法人新エネルギー財団「令和元年度 新エネ大賞」において最高賞である「経済産業大臣賞」を受賞している。
その後も活動は続き、同社が手掛ける宮古島でのオンサイトPPA(Power Purchase Agreement)の導入実績は2018年からの累計で1000件を超えた。「発電電力量でみれば島内の10-20%に相当する規模になった」という。「現場は一律ではない。構成機器の最小化、大量一括調達・計画、施工効率の向上、地域事業者の協業など知恵と工夫で実現してきた」と話していた。

シンポジウムの様子。2日目は、来間島マイクログリッド、系統用蓄電、再エネ導入施設などの視察ツアーが実施され「理論と実践が繋がる場」が共有された
■みゃーく会議とは?
同シンポジウムは2019年より開催されているもの。宮古島にみる日本の縮図とその解決策、実践例を共有してきた。コロナ禍で一時的に開催延期となっていたが今回で第4回目となる。開会講演では、一般財団法人電力中央研究所・市川和芳氏と三菱HCキャピタル・後藤伸一氏が共同発表として、宮古島における水素供給インフラ整備や利活用に向けた民間投資の進捗が語られた。
続いて東京大学・岩船由美子教授が講演。「電気自動車(EV)896万台、ヒートポンプ(HP)給湯機1400万台導入時にはそれぞれ最大20GW程度の調整力」になるといった家庭や小規模施設に眠るエネルギー資源の可能性を示唆した。同じく東京大学の荻本和彦特任教授は、欧米のDR事例を交え再エネ主導型の電力需給モデルの課題や方向性を俯瞰した。
需要側の最新動向をめぐっては、一般社団法人エネルギーリソースアグリゲーション事業協会の副会長を務めるShizen Connect・平尾宏明氏、早稲田大学・石井英雄教授が「分散型エネルギーリソースの活用は技術的に確立され、市場形成も徐々に構築されつつある」ことを解説。Linkhola・野村恭子氏は再エネ由来の環境価値を収益機会に変えるカーボンクレジットの活用例と重要性について。NTTデータ・永山誠氏はデータ連携の実際と課題を提示した。

離島で培ったノウハウを全国展開するため新たに設立されたREDER
シンポジウム中盤には宮古島市の砂川朗副市長も激励に訪れ、脱炭素先行地域計画の概要を紹介。「エコアイランド宮古島」を進化させ、観光業と共存する形で持続可能性を向上すると共に郊外農漁村地域の活性化を実現。産官学民が一体となったエネルギー転換を図っていくとの決意を表明していた。
シンポジウム最後に比嘉社長は「得られた知見とノウハウを広げてくため新会社『株式会社READER(リダー)』を設立」したことを公表。「日本全国での脱炭素化と地域課題解決をめざす」と意気込みを語っていた。
日本屈指の再エネ先進地域。離島から始まる脱炭素化。果たして全国波及なるか。今後の動静に期待がかかる。
【出典】
▷離島シンポジウム2025(みゃーく会議)開催報告
▷「再エネサービスプロバイダ事業」が新エネ大賞「経済産業大臣賞」を受賞
▷日新システムズ:屋外のIoTシステムに最適 「屋外型IoTゲートウェイ」
▷ネクステムズ
▷エコアイランド宮古島とは