【焦点】クールスクール・ラボ:体育館冷房の常識を変える「断熱+家庭用エアコン」―北九州実証で猛暑日も快適、全国展開へ

学校体育館の冷房整備を、巨大な業務用空調設備ではなく「断熱・遮熱+家庭用エアコン」で進める――。学校施設の健康増進と脱炭素化に向けた断熱・空調に関する研究会「クールスクール・ラボ」は10月6日、第1回シンポジウム「すべての体育館に冷房を! 断熱・遮熱と家庭用エアコンで快適な体育館を実現」をオンラインで開いた。
東京大学、東京理科大学、エネルギーまちづくり社、日本アクア、YKK AP、ゼネラルなどが参画。北九州市立池田小学校で今夏実施した実証結果を報告し、低コストで全国の学校へ展開できる体育館冷房のモデルを提示した。
猛暑の深刻化で、学校体育館では授業や部活動時の熱中症対策に加え、災害時の避難所としての環境整備も急務となっている。シンポジウムでファシリテーターを務めた東京大学大学院の前真之准教授は「冷房を我慢する省エネではなく、少ないエネルギーで安全、快適に冷房することが重要」と指摘。空調設備だけを大型化するのではなく、まず建物に入る熱を減らす発想への転換を訴えた。
■「まず断熱」巨大な空調設備から発想転換
前氏は体育館冷房について、スポット空調、全館空調、レジリエンス優先型、断熱優先型、断熱に再生可能エネルギーなどを組み合わせたフルセット型の5つに整理した。このうち全国への早期展開で重視するのが「断熱優先型」。屋根や窓から侵入する熱を減らしたうえで、必要な空調能力そのものを小さくする考え方である。
無断熱の体育館では、屋根や天井が高温になり、冷房で空気を冷やしても強い放射熱を受け続ける。大型空調設備を設置しても、快適性の向上には限界があるという。そこでクールスクール・ラボが提案するのが、屋根断熱、内窓、高効率な家庭用ルームエアコンを一体で考える「3点セット」だ。
家庭用エアコンは量産効果によって機器価格を抑えやすく、交換や修理も容易。大型設備のように1台の故障で全体が停止するリスクも小さい。屋根と窓の断熱で冷房負荷を減らせば、家庭用エアコンでも体育館の居住域を冷やせる可能性が高まる。さらに体育館の受電を校舎の高圧契約から切り離して低圧受電とする仕組みを活用すれば、学校全体の契約電力への影響を抑える選択肢も広がる。
将来的には、まず断熱と高効率空調を全国に広げ、その後、太陽光発電や蓄電池などを加える段階的な整備も想定する。最高仕様を一部の学校だけに整備するのではなく、必要十分な性能を早期に全国へ届けることを重視した。
■家庭用エアコン10台、猛暑下でも28℃以下を実現
その実効性を検証したのが北九州市立池田小学校。体育館の屋根を断熱し、南面に内窓を設置したうえで、家庭用エアコン10台を導入した。断熱改修や設備工事を含む総工費は約3400万円。
東京大学前研究室の木下蒼平氏が7月の実測結果を報告した。外気温が33~35℃程度まで上昇する条件でも、体育館の利用時間帯に空気温度が28℃以下となった割合は9割。熱中症リスクの指標となるWBGTも、通常の運動が可能な「注意」以下の時間が同じく9割を占めた。
消費電力量は1日当たり約150kWhで、九州電力の料金を基にした試算では電気料金は1日約4000円。家庭用エアコンでも、断熱と組み合わせることで体育館を十分に冷房できる結果となった。
シミュレーションでも断熱効果は鮮明となった。屋根と窓を改修しない場合、空調能力を増やして空気温度を下げても、床や壁、天井から受ける放射熱を考慮した「作用温度」でみると快適な時間は5割程度で頭打ちとなった。一方、屋根断熱と内窓を組み合わせると快適時間率は9割以上に上昇し、冷房の処理熱量も最大約30%削減される。空調設備を大きくする前に建物性能を高める効果が数値でも示された。
北九州市都市整備局の梅木亮氏は、設備の導入費だけでなく、光熱費や更新費を含めたライフサイクルコストで体育館改修を判断する考え方を紹介した。
同市の試算では、一般的な体育館で断熱せずに空調を導入した場合に比べ、屋根や窓を断熱するほど冷房負荷が低下し、必要な設備容量も縮小する。断熱工事そのものには費用がかかる一方、空調設備の小型化や将来の更新費、光熱費まで含めると負担を抑えられるケースが多いという。
施設の残存使用年数も重視する。長期間利用する学校では壁まで含めた断熱を行い、統廃合などで利用期間が限られる施設では屋根や窓を優先するなど、費用対効果に応じて改修内容を変える。家庭用エアコンについても夏季の実証に続いて検証を進め、導入範囲を検討していく。
シンポジウム後半では、エネルギーまちづくり社の竹内昌義氏らが学校断熱改修の取り組みや支援策を紹介。自治体が導入しやすい具体策として、ゼネラルのエアコン、日本アクアの次世代断熱防水工法、YKK APの樹脂内窓などを取り上げた。
最後のパネルディスカッションでは、学校断熱を阻んできた前例や予算の壁をどう越えるかを議論した。体育館冷房を「高額な大型設備を設置する事業」から、「建物性能を高め、量産された設備を小さく使う事業」へ転換できるか。猛暑対策、防災、脱炭素、自治体財政という複数の課題を同時に解く新たな学校改修モデルとして、実証から全国展開へ向けた動きが始まった。
〔参照〕
▷性能向上リノベの会