【断熱】日本サステナブル建築協会(JSBC):寒い家は血圧を上げる?住まいの温度と健康の深い関係を提起―室温18℃を目安に「生活環境病」予防へ、設計ガイド改訂

(出典:HPより)
一般社団法人日本サステナブル建築協会(JSBC)は3月3日、オンラインで「健康に暮らす住まいの作り方―生活環境病の予防に向けて―」を開催した。住宅の温熱環境や空気質など“生活環境”が健康に与える影響を踏まえ、医学と建築学の連携で疾病リスクを下げる設計・改修の考え方を共有した。2025年12月に発行した書籍『健康に暮らす住まいの設計ガイドマップ―生活環境病の予防にむけて―』の内容を軸に、設計支援ツールや最新の研究成果、実務での活用法を解説した。
■「良好な室温」が健康守る、全国調査の蓄積
基調説明では、SDGs-スマートウェルネス住宅(SDGs-SWH)設計ガイド研究委員会の伊香賀俊治委員長が、疾病要因を「生活習慣」「生活環境」「遺伝」に整理し、治療は医学、病気が起きにくい環境づくりは建築科学が担うと指摘。生活環境病対策には両分野の連携が不可欠と強調した。
背景として、世界保健機関(WHO)が2018年に公表した「住まいと健康のガイドライン」や、国内の制度動向にも言及。国交省の住生活基本計画(2021年)や建築物省エネ法改正を踏まえ、住宅性能向上の流れが健康分野と結びつき始めた点を示した。厚労省の「健康日本21(第三次)」(2023年)でも住宅分野との連携が明記されるなど、健康政策側でも住環境を扱う素地が整いつつあるという。
根拠として紹介したのが、国交省のSWH全国調査。全国約2000世帯・4000人規模で、室温・湿度、家庭血圧、活動量などを改修前後で追う研究で、医学系論文は累計14編に達したという。追跡分析では、断熱改修をしない場合に起床時血圧が平均6.9mmHg上昇した一方、断熱改修を行うと血圧上昇が半分程度に抑えられたといった傾向を示した。室温を18℃以上に改善した場合、脂質異常症や夜間頻尿、家庭内転倒などの発症が抑制される可能性にも触れた。
質疑では、全国調査の進捗として「改修10年後の追跡調査」を開始したことを説明。今後、長期居住による発症傾向や自覚症状など、新たなエビデンスにつながる可能性を示した。室温上昇に伴う湿度低下への懸念も出され、相対湿度40〜60%程度を目安とする知見は、過去のエビデンス集なども参照しながら検討が必要との見解が示された。

■設計ツール「BHAT®」とガイド改訂で実務へ
後半は、設計現場で使える“実装”が焦点となった。神奈川大学建築学部建築学科の芹川真緒准教授は、設計支援ツール「BHAT®(Best Based Health Assessment Tool)」を紹介。温熱・エネルギー計算ツール「BEST」の結果を引き継ぎ、住宅の室温から血圧など健康指標を予測し、同時にエネルギー消費量、CO2排出量、光熱費などSDGs各目標に対応する指標を出力する。Excel形式で、詳細評価(研究・実務向け)に加え、居住者が温度計や検針値など簡易入力で評価するルートも想定する。
書籍『健康に暮らす住まいの設計ガイドマップ』の改訂ポイントも共有された。東京都立大学大学院都市環境科学研究科建築学域の小泉雅生教授は健康ニーズと住宅性能・使い方の連動を整理し、9つのキーワードなどの成果物を経て、設計者・施工者・供給者向けの解説書としてガイドマップを整備してきた経緯を説明。東京大学の谷口景一朗特任准教授は改訂版の特徴として、①キーワードを9から5へ再編、②部位別整理を廃止してライフステージ(高齢期・育児期など)軸を新設、③基本・選択の2段階で対策レベルを提示、④ページ数を約3割削減し現場で使いやすくした点を挙げた。
各章のダイジェストでは、予防安全を中心に、睡眠、入浴・排泄・身だしなみ、家事、リラックス/コミュニケーションまで幅広い論点を整理した。特に熱中症は屋内発症が多いとのデータを踏まえ、日射遮蔽や冷房計画を“必須条件”として位置づけるべきだと強調。防犯についても、侵入不安が睡眠の質や慢性疲労を通じて健康に影響し得るとして、CPマーク部品やスマート機器の活用を含めた対策を示した。
個々の対策は一見「当たり前」に見えても、健康視点で住宅を点検すると注意点は多いと指摘。設計の打ち合わせや改修提案の“見直しのきっかけ”として書籍とツールの活用を呼びかけ、シンポジウムを締めくくった。
〔参考〕
▷SWH(スマートウェルネス住宅)に関する研究