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【独自】オムロン:老舗太陽光発電・蓄電メーカー、系統保護からエネルギー制御への軌跡 ― 始まりの地・阿蘇から動き出す次世代戦略

2026.03.01

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太陽光発電業界の一角を牽引してきた老舗大手メーカーはどこに向かうのかー。

創業者生誕の地として知られる熊本。市内から特急あそぼーい!で約1時間半。雄大な自然に囲まれた地にオムロン阿蘇はある。敷地に足を踏み入れると、記憶の奥にある風景が蘇る。一方、ここで語られたテーマは明らかに“次の時代”へ進んでいた。

オムロンソーシアルソリューションズ(以下、OSS)は2月12日、エネルギーソリューション事業説明会および『阿蘇エナジー道場』見学会を開催。会場で示されたのは、機器メーカーの枠を超え、電力システムそのものへ踏み込む構えだった。

■“標準をつくってきた老舗”の強みを、蓄電・クラウド制御へつなぐ

オムロンというと、一般的には体温計などの健康医療機器を思い浮かべる人も多いだろう。だが、同社は、制御機器・FA(ファクトリーオートメーション)をはじめ、社会インフラ、ヘルスケアなど複数領域を手掛ける。年商8000億円超えの我が国が誇るグローバル企業である。OSSはその中で、駅の自動改札機、道路交通、決済関連など、社会インフラを担う事業を展開してきた。エネルギーは、そのOSSの中核領域として存在感を増している。

マザー工場であり1973年創業のオムロン阿蘇について大西喜英社長は「制御機器を中心とした生産拠点として発展してきたが、現在では生産の約9割をエネルギー関連製品が占めるまでに事業構成が変化。パワーコンディショナだけでなく蓄電システムやV2Hなど、エネルギーソリューションを支える主要製品の生産・検証拠点として位置付けられている」と説明していた。

太陽光発電の心臓部と呼ばれるパワコンメーカーは国内外に多数あるが、同社は「系統を守る」領域である保護継電器を起点に、系統連系技術を磨き上げ市場構築に貢献してきた。初号機は今から30年以上前の1994年。まさにこのエネルギー分野の先駆者といえる。

心臓部を作り上げてきただけではない。停電時の逆潮流など系統の危険を検知し、システムを安全に停止させるための技術。NEDO実証で生み出された『多数台連系時単独運転防止技術(通称:AICOT アイコット)』が広く普及したことが、太陽光の安全な導入を支える前提になった。市場を形成を担いながら、標準となる機能を形にしてきたのである。

もっとも、エネルギー分野の歩みは順風満帆だった訳ではない。エネルギーソリューション事業を長年率いてきたOSSの常務執行役員である笹脇厚本部長は「市場黎明期は採算が厳しく、社内で事業見直しの議論もあった」と明かす。それでも継続できた背景は「いずれ伸びる」「社会的意義がある」という長期目線での経営判断だった。

そして転機は訪れる。固定価格買取制度の導入によりそれまで住宅分野しかほとんど存在しなかった市場は拡大に向かう。

低圧・産業用といった発電所領域に広がる中、同社は2012年に屋内型メインだった設計思想から、今やベストセラーとして語り継がれる屋外タイプ(5.5kW)を投入。その後、卒FITユーザの発生を見据え2015年に蓄電システムを上市するなど太陽光市場が拡大と変動を繰り返すなかで、次の需要を見越し、既存の技術・商流・顧客関係を活かした先手を打ってきた。

「創業から長年培ってきた系統連系技術、制御技術、クラウドで実施するエネマネ制御、社会インフラの現場で培った全国対応力を強みに、太陽光・蓄電池の長期安定稼働を支えていく」

未来の成長軸として語られたのは、蓄電池の普及と、それを束ねて動かす市場の存在である。再エネ導入が進むほど、昼の余剰と朝夕の不足という需給ギャップが拡大する。ここで重要になるのが調整力とみる。「需給調整市場の活用を見据え、家庭用蓄電池を束ねて制御し、ユーザーのメリットと系統安定への貢献を両立させたい」

具体策が並ぶ。2025年8月には家庭用蓄電システムを刷新し、小型化と使いやすさを追求(容量:6.5kWh・9.7kWh・13.0kWh)。2025年12月にはGridShareへ出資し、AIによる予測や市場取引の知見、自社の制御技術を組み合わせていく。すべてを自前で賄うのではなくパートナー戦略を展開することでより善い社会実現のための現実的な一手とする。

太陽光と蓄電池の利用によって生まれるJ-クレジットを、事業者として取りまとめ、ユーザーへの還元や寄付につなげる取り組みも紹介。同日には、IoT機器向けセキュリティ規格(JC-STAR)取得も公表し、ネットワーク接続が前提となるエネルギー機器の次の要件にも先回りする。

■実証の現場、進化する『阿蘇エナジー道場』

説明会後には、『阿蘇エナジー道場』および工場見学会が行われた。敷地内に設けられた道場は2012年に開設された大規模検証施設。空手家であった鳥越浩二社長(当時)が命名したことに由来する。『阿蘇太陽光発電道場』と呼ばれていた。

太陽光発電や蓄電システムを実際の運用環境に近い形で稼働させながら評価できる点を特徴とする。全18システム・計200kW・複数社の太陽電池がズラリと並ぶ。新製品のフィールド試験や長期信頼性試験、不具合の再現検証に加え、顧客やパートナー企業、行政との実証実験にも活用。実環境で得られたデータを設計や改良へ反映させることで、安定稼働を重視するエネルギー機器の品質向上を図っている。

製造フロアでは大型基板の実装から最終検査までの工程が公開され、重量のある製品を台車で移動させながら組み立てる独自の生産方式など、現場に即した工夫が紹介された。開発・検証・生産が同一拠点内で循環する体制により、現場で積み上げたエビデンスが製品化につながる。

業界標準を形づくってきた老舗太陽光発電・蓄電メーカー。系統保護からエネルギー制御へ。その次世代戦略はまた始まりの地・阿蘇から動き出しているようだった。

〔参照〕
オムロン ソーシアルソリューションズ株式会社
オムロン阿蘇株式会社