【焦点】X-HEMISTRY:「スマートホーム」から「AIホーム」へ、IFA2026で見えた住宅の未来――中国勢が世界市場を席巻、Matter普及で「家が自ら考える時代」に

スマートホームは、機器を遠隔操作する時代から、AIが生活を理解し、自律的に住環境を最適化する「AIホーム」へと進化し始めた。世界最大級のテクノロジー展示会「IFA 2026」では、AIを搭載した家電やロボットに加え、メーカーの垣根を越えて機器を接続する共通規格「Matter(マター)」の普及が進展。住宅そのものがAIの頭脳と手足を備える未来像が浮かび上がったという。
X-HEMISTRYは10月9日、東京・西新宿で「IFA2026&スマートホームトレンド報告会」を開催した。同社CEOでConnectivity Standards Alliance(CSA)日本支部代表の新貝文将氏と、登録者40万人超のYouTuberでmametto共同代表のマメ(益田航希)氏が登壇。9月4~8日にドイツ・ベルリンで開催されたIFAの視察結果を報告した。会場とオンラインを合わせて約130人が参加した。
■AIホームへの転換、操作する家から自律する家へ
今年のIFAは「The future is now」を掲げ、約2000社が出展、約24万人が来場した。展示会場ではAIを活用した生活家電やロボット、スマートホーム関連製品が存在感を高めた。
従来のスマートホームは、利用者が照明や空調に個別の指示を出し、あらかじめ設定した条件で機器を動作させる仕組みが中心だった。生成AIの導入によって、自然言語による会話から利用者の意図を理解し、複数の機器を連携させる方向へ進化している。
例えば「寒い」「少し暗い」といった何気ない会話から空調や照明を調整するほか、生活パターンに応じて自動制御を提案する。将来的には、家族の帰宅履歴や家電の利用状況などを把握し、高齢者の見守りや生活支援に活用することも視野に入る。
新貝氏は、ネットワークにつながった機器が家のインフラとなり、その上でAIが機能する構造を説明。家電を操作するためのスマートホームから、住宅全体が生活を支えるAIホームへの転換が進むと展望した。
■Matterは「主役」から「インフラ」へ、ローカルAIが住宅の頭脳に
もう一つの変化が、スマートホームの共通規格「Matter」の成熟だとする。新貝氏とマメ氏は、今回の展示会ではMatter対応を前面に打ち出すメーカーが減り、対応製品であることが当たり前になりつつあると指摘。Matterが特別な付加価値ではなく、住宅設備や家電に組み込まれる標準機能へ移行していると分析した。
Matterは異なるメーカーの機器を共通の仕組みで接続するための規格。これまで課題だったメーカー間の相互接続性を改善する基盤として普及が進む。会場では、低消費電力の無線通信規格「Thread(スレッド)」に対応した製品の拡大も確認された。
注目を集めたのが、Ankerの「MindBase」やUGREENの「Home Agent」といった、ローカルAIを活用するホームエージェント製品。家庭内に設置した機器がAIの頭脳となり、Matterでつながる各種デバイスを統合制御する構想を示した。
クラウドへの依存を抑えて家庭内でデータを処理する仕組みは、応答速度やプライバシー保護の面でも利点が期待される。AIを搭載する住宅設備が、エネルギー、モビリティ、介護などの外部サービスと連携する可能性も議論された。

■中国メーカー約930社が出展、家電から住宅・ロボットへ領域拡大
展示会で際立ったのが中国メーカーの存在感。新貝氏によると、中国勢は約930社に上り、出展企業のおよそ半数を占めた。一方、日本の大手家電メーカーは一般来場者向け展示を縮小し、一部は商談中心の参加となった。
中国勢ではXiaomi(シャオミ)、Dreame(ドリーミー)、Hisense(ハイセンス)などが大規模な展示を展開。スマートフォン、生活家電、EV、住宅設備を横断する製品群を打ち出した。
特にドリーミーは、ロボット掃除機だけでなく、キッチン家電、美容機器、ペットケア用品などへ事業領域を拡大。マメ氏は、技術性能に加えてデザインを重視する同社の戦略に注目した。
消費者がデザインや使い勝手を理由に製品を選び、結果として家庭内にスマートホーム環境が整っていくという考え方だ。専門知識がなくても自然に導入できる製品設計が普及の鍵になると指摘した。
韓国のLGもAIホームを前面に掲げ、家電とロボットの連携を訴求した。AIが各機器を個別に制御するのではなく、住宅全体を統合する方向性が国やメーカーを超えた共通の潮流となっている。
■ヒューマノイドロボットは過渡期、住宅そのものがフィジカルAIに?
IFAでは人型ロボットの展示も目立った。ダンスや格闘動作、家事作業などを披露する機体が来場者の注目を集めた一方、家庭への本格普及には課題が残る。
新貝氏は、複雑な家事をこなす人型ロボットについて、動作速度や対応できる作業の範囲、導入費用などを踏まえ、実用化にはなお時間が必要との見方を示した。
一方、マメ氏はSwitchBotが展開するAI搭載のコミュニケーション製品に可能性を見いだす。生活空間に自然に溶け込み、利用者との関係性を築く小型ロボットが、今後のAI普及の入り口になり得ると指摘した。
新貝氏は、住宅に備えられたセンサー、カメラ、照明、空調、スマートロックなどをAIが統合制御することで、住宅そのものが現実世界に働きかける「フィジカルAI」として機能する可能性を示した。人型ロボットを導入しなくても、住宅設備の連携によって暮らしを自律的に支援する仕組みが実現するという。
■日本の住宅産業にも転機、更新できるスマートホームが鍵
国内市場にも変化の兆しがある。報告会ではパナソニックによるGoogle Homeとの連携方針にも言及。国内の住宅設備メーカーがグローバルなスマートホーム基盤との接続を強化する動きに期待が寄せられた。
一方、マメ氏は、特定メーカーの独自規格に依存した住宅設備や、交換が難しい機器を建物に組み込むことに警鐘を鳴らした。スマートホーム関連技術の進化は速く、住宅の長い使用期間に対応するには、設備を容易に更新できる構成が重要になる。
マメ氏が共同代表を務めるmamettoは、全国の工務店に向けてスマートホームの提案・導入を支援する事業を展開。X-HEMISTRYも企業向けの事業化支援に加え、11月から会員制サービス「スマートホーム研究所」を開始する予定で、国内外の市場動向や技術情報を提供する。
AIによる自律制御は発展途上で、利用者の意図と異なる動作や設定の難しさなど、解決すべき課題も残る。ただ、Matterによる接続基盤の整備とローカルAIの進展によって、スマートホームの役割は大きく変わり始めている。住宅業界にとっても、機器の遠隔操作という付加機能の提案から、AIを前提とした暮らしの設計へと発想を転換する時期を迎えつつあるにかもしれない。

〔参照〕
▷世界最大級のテックイベント「IFA 2026」をスマートホーム視点で徹底解説!IFA2026 & スマートホームトレンド報告会」10/9(金)開催
▷スマートホーム研究所
▷株式会社mametto