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【焦点】LIVING TECH協会:スマートホーム「15%の壁」突破へ、1万人調査が映す次の市場―鍵・家事・見守りから始まる“暮らし起点”の新提案

2026.08.29

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「スマートホーム」という言葉を意識していなくても、すでにその入口に立っている生活者は少なくない――。LIVING TECH協会とRoomClip住文化研究所が実施した1万人規模の調査から、日本のスマートホーム市場が普及の転換点を迎えつつある実態が浮かび上がった。利用経験者は15%を超え、導入した人の満足度は86.4%に達した。一方、未導入者にも玄関の鍵、照明、家事、見守りといった暮らしの課題は存在する。今後の市場拡大には「スマートホームを売る」のではなく、生活上の小さな不便を解決する手段として提案できるかが鍵を握りそうだ。

LIVING TECH協会は8月27~28日、インテックス大阪で開かれた建築・不動産の総合展示会「JAPAN BUILD OSAKA」内で「LIVING TECHカンファレンス2026」を開催した。同カンファレンスは「暮らし×テクノロジー」を軸に、住宅・不動産、家電、IT、エネルギーなど異業種の企業が住まいや暮らしの課題、新規事業の可能性を議論する場として展開している。2026年は大阪で6講演を実施し、12月には東京ビッグサイトでも9講演を予定する。

主催するLIVING TECH協会は2020年設立。「人々の暮らしを、テクノロジーで豊かにする。」をミッションに掲げ、スマートホームを中心に、BtoC、BtoBの垣根を越えた企業間連携や実証実験、情報発信に取り組む。カンファレンス自体は協会設立前から続く取り組みで、異なる業界のプレーヤーが一つのテーマについて多角的に議論する点を特徴としている。

本記事では、28日の最終セッション「1万人調査で判明!スマートホームのユーザーニーズ最前線~ユーザーのリアルから紐解くスマートホームビジネスの新提案戦略とは~」の模様を紹介する。

パネリストには、ユーザー向けスマートホーム市場をけん引するSwitchBotとNature、機器の設置・設定やサポートを全国で展開する日本PCサービスが参加。RoomClip住文化研究所がLIVING TECH協会と実施した調査結果を基に、生活者がスマートホームをどう受け入れ、どこに潜在需要があるのか、住宅・不動産事業者はそこからどのようなビジネスを組み立てられるのかを議論した。

■メーカー、ユーザーコミュニティ、設定支援 異なる立場から市場を見る

SwitchBotから登壇したのは、国際本部日本事業部でBusiness Development Manager兼Product Managerを務める北島祥氏。SwitchBot日本法人の立ち上げ期から事業開発や日本市場向けのローカライズ、品質管理、プロダクトマネジメントなどを担ってきた。現在は家庭向けだけでなく、フィットネス施設や高齢者住宅などBtoB・エンタープライズ分野への展開にも力を入れる。

SwitchBotはスマートロックやスマートリモコンなどに加え、ロボット掃除機、空気清浄機、加湿器など約70種類の製品を展開する。Wi-FiやBluetoothなどを使って家庭内の機器を連携し、住宅全体の利便性を高める製品群をそろえている。

Natureからはプロダクトマーケティングマネージャーの坂元宏範氏が登壇した。同社は「自然との共生をドライブする」を掲げ、エネルギーマネジメントとホームオートメーションを2本柱に事業を展開する。「Nature Remo」などのスマートリモコンに加え、家庭の電力使用量や太陽光発電、蓄電池などを可視化・制御する機器、EV充電を制御する製品、スマートロックなどへ領域を広げている。

日本PCサービスからはデジホ事業部担当課長の森山政洋氏が参加した。同社は機器メーカーとは異なり、パソコン、スマートフォン、ネットワーク機器などの利用者宅を訪問し、提案から設置、設定、導入後のサポートまでを担う。年間約42万件の顧客対応実績を持ち、このうち約18万件が新規顧客。駆け付けサービスは6万件を超え、24時間365日のヘルプデスクも運営する。スマートホームについても「買った後に使える状態まで持っていく」役割を担う存在となっている。

調査結果を紹介し、議論を進行したのがRoomClipのマーケターでRoomClip住文化研究所研究員の竹内優氏。RoomClipは住まいと暮らしに特化した写真共有SNSで、ユーザーが投稿する生活実例を通じて住生活の変化やトレンドを分析している。

またLIVING TECH協会事務局長の長島功氏が、住宅・不動産業界とスマートホーム市場をつなぐ立場から議論に加わった。

■利用経験15%超、普及は「キャズム」の手前まで

今回の議論の土台となったのが、LIVING TECH協会とRoomClip住文化研究所が共同でまとめた「スマートホーム市場動向レポート2026」だ。

一般生活者を対象とした調査では、20~60代の男女約1万1000人から回答を取得。年代や男女比に大きな偏りが生じないよう構成した。加えて、RoomClipユーザー約400人へのアンケートや、実際のスマートホーム利用風景を投稿してもらう企画を実施し、一般生活者と住まいへの関心が高い層の違いも分析した。

2026年時点で、スマートホーム関連機器・設備の導入経験がある人は15%を超えた。スマートフォンから操作できる家電などまで対象を広げると、利用経験は約4人に1人となる。

セッションでは、この「15%」が一つの節目として取り上げられた。新しい商品やサービスが一部の先進利用者から一般市場へ広がる際の壁として知られる「キャズム」が16%前後にあるとの考え方に照らすと、日本のスマートホーム市場もイノベーターやアーリーアダプター中心の市場から、より幅広い生活者へ広がる局面に近づいているとの見方だ。

興味深いのがRoomClipユーザーとの比較。一般調査のスマートホーム利用率が15%台だったのに対し、RoomClipでは30.9%に達した。RoomClipの主要利用者には女性も多い。

スマートホームと聞くと「ガジェット好きの男性が導入するもの」といったイメージも根強いが、暮らしへの関心が高い家庭では、すでに女性を含む幅広い層に利用が広がっていることになる。

■導入者の86.4%が満足、「使えば価値を感じる」

普及拡大を考える上でもう一つ重要なのが、利用後の評価。

スマートホーム導入者の86.4%が「満足」以上と回答した。遠隔操作やスケジュール設定、自動化など、導入前にはイメージしにくかった機能を実際に使うことで利便性を感じている人が多い。

RoomClipユーザーを見ると、その特徴はさらに明確になる。

スマートホームを導入した理由として、家事負担の軽減、照明による快適性向上、家事の効率化などが一般ユーザー以上に強く現れた。単に「新しい機器だから使う」のではなく、「この家事を減らしたい」「この生活を快適にしたい」という目的を持って導入している。

設定が多少難しくても、解決したい課題が明確なら導入意欲は失われにくいという指摘もあった。逆に言えば、スマートホーム普及の最大の壁は設定の複雑さだけではない。「何が便利になるのか」「自分の生活の何が変わるのか」が十分に伝わっていない点に課題がある。

自動でカーテンを開閉する。帰宅前にエアコンを動かす。玄関で鍵を探さずに済む。家を出た後に照明を消したか確認する。こうした一つ一つは小さな作業だが、毎日繰り返せば生活者の負担になる。セッションでは、こうした「小さなストレス」を減らす積み重ねがQOL向上につながるとの意見が出た。

■「困っていない」の裏側にある潜在需要

一方、未導入者にスマートホームを使わない理由を尋ねると、「購入するほど困っていない」といった回答が目立った。

ところが、スマートホームという言葉を外して日常生活の困りごとを尋ねると、状況は変わる。

玄関や鍵に関する不安、照明操作の手間、家事の負担など、さまざまな課題が挙がった。「鍵を取り出さずに玄関を開けられる」といった具体的な機能を提示すると、「やってみたい」と答える人が増えた。

つまり、「スマートホームは必要ない」という回答が、そのまま「生活上の課題がない」ことを意味しているわけではない。

生活者は自身の困りごととスマートホームという解決手段を結び付けていない可能性がある。

このギャップこそ、住宅、不動産、家電などの事業者にとって大きな市場機会になる。

「スマートホームを導入しませんか」と持ち掛けるより、「玄関の鍵を毎回出す手間をなくせます」「子どもが帰宅したことを確認できます」「外出先からエアコンを操作できます」と伝える。技術や製品カテゴリーではなく、暮らしの場面から提案する必要性が鮮明になった。

■次の入口は「玄関」か、Natureが子育て世帯の声を製品化

こうした潜在ニーズを象徴するのが玄関周辺だ。

Natureは2026年、スマートロック「Nature Lock」と関連製品を投入した。既存のNature Remoユーザーから「スマートロックを作ってほしい」という声が寄せられたことが開発につながったという。

特に意識したのが子育て世帯。鍵の管理と見守りを一つの体験として設計し、子どもに鍵を持たせる際の不安や、帰宅確認などのニーズに対応する。通知についても大量に送るのではなく、必要な情報を届ける考え方を取り入れた。

これまで国内スマートホーム市場では、スマートスピーカーやスマートリモコンが最初に購入する「エントリーデバイス」になってきた。

しかし調査結果を踏まえると、今後はスマートロックなど玄関周辺の製品が新たな入口となる可能性があるとの見方も示された。

■SwitchBot、住宅の外にも拡大 高齢者施設や民泊で導入

スマートホーム市場は一般家庭だけにとどまらない。

SwitchBotはBtoB分野への展開を加速する。例えば人手不足が課題となるフィットネスジムなどで、空調や照明、換気を自動制御する。利用者の快適性を維持しながら省エネと省人化を両立する考えだ。

高齢者施設への応用も進める。

サービス付き高齢者向け住宅や特別養護老人ホームの居室は、エアコンやカーテンなど一般住宅と共通する設備が多い。家庭向けに開発したスマートホーム機器を持ち込むことで、入居者のQOL向上に加え、施設職員が朝夕にカーテンを開閉するといった日常業務を減らせる。

民泊ではスマートロックやスマートリモコンを使って無人運営を支援する事例もある。リフォーム物件にスマートホーム機器を標準装備し、再販・賃貸するデベロッパーとの取り組みも始まっている。

家庭で生まれた機器を、介護、宿泊、賃貸住宅などへ横展開する動きが広がっている。

■普及の最後の壁は「設定」と「誰に聞くか」

製品が増え、利用意向が高まっても、依然として大きな課題となるのが設定だ。

調査では、アカウント登録や機器設定の複雑さに対する不満も確認された。メーカーが異なれば別のアプリやアカウントが必要になる場合がある。Wi-Fiなど家庭内ネットワークにつながらなければ、利用者自身で原因を判断することも難しい。

ここで重要になるのが日本PCサービスのような支援事業者だ。

同社は住宅メーカーやデバイスメーカーと組み、現場での設置・設定から保守、導入後の問い合わせまでを一括して請け負う。スマートホームを自社顧客に提供したいものの、全国で施工・設定できる人員がいない、問い合わせ窓口を用意できないといった企業からの相談が増えているという。

住宅・不動産事業者にとっても重要な論点となる。

スマートホームを採用すれば、入居者から機器やネットワークに関する問い合わせが来る可能性がある。「自社では答えられない」という不安が導入の社内障壁になりやすい。

セッションでは、こうした問い合わせ窓口や現地対応を外部事業者に任せることで、住宅会社自身がすべての技術対応を抱える必要はないとの考え方が示された。

■「スマートホームを売らない」ことが市場を広げる

議論から浮かび上がったのは、スマートホーム市場の拡大には「スマートホーム」という言葉そのものに頼らない発想が必要ということだ。

一般家庭ではすでにスマートフォンとインターネットが広く普及している。スマホから操作するロボット掃除機や家電を使いながら、自身を「スマートホーム利用者」と認識していない人もいる。

その一方で、家事を減らしたい、鍵の不安をなくしたい、子どもや高齢者を見守りたい、電気代を抑えたいという需要は存在する。

住宅・不動産事業者に求められるのは、それぞれの生活課題に合わせて必要な機器を組み合わせることになる。

導入も大規模なシステムを一度に整備する必要はない。SwitchBotやNatureなど既存のコンシューマー向け製品を活用すれば、比較的低コストで試験導入できる。設定や問い合わせ対応は外部事業者と連携するという選択肢もある。こうした「スモールスタート」と適切な外部委託が住宅・不動産業界にとって新たなスマートホームビジネスへの入口になるとの考えが示された。

今後の技術面ではAIも重要になる。現在は利用者自身が機器を設定し、自動化の条件を組むケースが多い。AIが生活パターンを理解し、利用者が細かな設定をしなくても住環境を自動調整する方向へ進めば、現在の導入障壁をさらに下げられる可能性がある。

今回の1万人調査が示したのは、「スマートホームを欲しい人」が急増しているという単純な構図ではない。

むしろ、生活者の中にすでに存在する小さな不便や不安に対し、スマートホームが解決策になり得ることを十分に伝えられていないという市場の姿だ。

利用経験は15%を超え、導入者の満足度は86.4%に達した。暮らしへの関心が高いRoomClipユーザーでは利用率が30%を超える。

普及の土台は整いつつある。

次の競争は、機器の性能や製品数だけでは決まらない。「何ができるか」から「誰の、どんな困りごとを解決するのか」。玄関、家事、見守り、省エネなど生活者にとって分かりやすい課題から提案し、導入・設定・アフターサポートまでを一つの体験として設計できるか。

スマートホームが一部のガジェット愛好家のための技術から、住宅そのものの価値を高める社会インフラへ広がるか。その分岐点が近づいている、と言えそうだ。

〔参照〕
LIVING TECH協会とRoomClipが「スマートホーム市場動向レポート2026」を発表。 利用経験は15.1%でまもなくキャズム超えの岐路、利用者の86.4が「満足」と回答。
一般社団法人LIVING TECH協会
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