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【列伝】住環境計画研究所 中上英俊 会長 :日本の省エネ政策の思想と文化、時代を越えて続く議論の礎

2026.04.12

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竹林の七賢―。
世俗を離れ音楽と美酒を交わしながら清談に耽ったと言われている。その哲学的な思想は現代にも通ずる。

省エネ。今や脱炭素の潮流にある中でその基盤となる考え方を生み出し、文化として浸透させた一人。日本の省エネルギー政策の議論と実装、その双方に影響を与えた。住環境計画研究所の中上英俊会長が4月5日、次世代へのバトンを渡し、見守るかのよう旅立った。享年81歳。

毎年恒例行事として開催される年末の業界懇親会。多くの著名人が集まる一方、開会挨拶も無ければよくある堅苦しい締めもない。不思議と会場には穏やかな空気が流れている。数年前、初めて参加した際に驚きと違和感を覚えたのを記憶している。

其処には深い理由があった。「職業や役職に関わらず気兼ねなく世の中について語り合う。これが創業当初からの文化」と中上氏が語っていたのが印象的だった。

省エネ関連の一大イベントで知られるBECC JAPAN(気候変動・省エネルギー行動会議 )―。米国で開催されていた文化を国内に広めた。これも中上氏が主催者との偶然に近い出逢いの中で実現させていったものだった。

総合資源エネルギー調査会 省エネルギー小委員会という国の諮問機関の委員長も務めた。近年はZEH・ZEB、トップランナー制度、電力需要の在り方などテーマは多岐にわたる。1979年の省エネ法制定以降の議論を継承し、産業・業務・家庭・運輸など幅広い分野を対象に、エネルギーの「削減」にとどまらず「合理的な利用」を追究。変化する世の中を議論する場には、羅針盤としての中上流なるものが息づいているかのようだ。

脱炭素社会の実現に向けて我々が向かうべき方向性は?

「エネルギーはすぐに転換できるものではない」
「重要なのは俯瞰的視点と異業種連携」
「目指すべき、在るべき姿から現在を眺めていくこと」

見据える視座は広く遠かった。

その緩やかな繋がり。
大らかな器と喧々諤々とする議論が世の中を変えていったのかもしれない。

省エネという切り口を世の中に広め浸透させた。その思想と文化は、いまもなお議論の中に生き続けている。

【略歴】
1945年岡山県生まれ。東京大学大学院工学系研究科建築学専門課程博士課程を単位取得の上修了後、1973年に住環境計画研究所を創業。1976年に株式会社へ改組し、代表取締役所長として住環境・エネルギー分野の調査研究や政策提言を主導してきた。2007年には東京大学大学院工学系研究科建築学専攻にて博士(工学)を取得、理論と実務の両面で同分野をけん引してきた。

大学教育にも幅広く関わり、慶應義塾大学教授のほか、東京工業大学(現・東京科学大学)、早稲田大学などで教鞭を執った。経済産業省の諮問機関である総合資源エネルギー調査会(省エネルギー小委員会委員長を含む)や中央環境審議会など政府の主要審議会委員を歴任し、エネルギー・環境政策の形成に深く関与した。専門はエネルギー・地球環境問題および地域問題。2013年より代表取締役会長を務め、2026年3月31日付で代表取締役を退任した。

【組織・人事】
今春2026年4月1日から住環境計画研究所は前・取締役研究所長の鶴崎敬大氏が代表取締役に就任。偉人が築いた文化の継承と浸透を図っていく。

〔参照〕
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