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【独自】三菱地所:スマートホームで不動産業界の常識を覆す、『HOMETACT(ホームタクト)』分社化で成長加速―機器連携から体験設計へ、“選ばれ続ける”住まいと暮らしの価値を提供

2026.04.11

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三菱地所は4月、総合スマートホームサービス「HOMETACT(ホームタクト)」事業を分社化し、新会社「株式会社HOMETACT」を設立した。三菱地所が掲げるコーポレートブランド「人を、想う力。街を、想う力。」のもと、住まいの利便性や快適性を高めるだけでなく、不動産の資産価値そのものを引き上げる事業として本格拡大に乗り出す。

新会社は、三菱地所が2021年11月に提供を始めたHOMETACTの開発・運営を担う。トップには松本 太一 CEO と ホームタクト開発を牽引してきた橘 嘉宏 COOが共同代表に就任した。新たなコーポレートメッセージには「日本の不動産に、選ばれ続ける力を。」を掲げた。スマートホーム技術によって暮らしやすさを更新し続けることで、建物の価値を維持するだけでなく、経年によって価値が目減りするという不動産の常識を見直し、「経年劣化を経年進化」に変えていく。会見には三菱地所の鈴木智久 住宅業務企画部長も登壇しグループとしての期待とエールが贈られた。

■原点は“バラバラなスマートホーム”への課題意識

原点は4年前、正式事業化に続く施策として外販を本格化させた2022年頃にさかのぼる。当時、三菱地所は総合デベロッパーとしては異例ともいえる形でスマートホーム市場への本格参入を打ち出した。丸の内をはじめ全国や世界で都市開発、住宅事業を手掛けてきた“根っからの不動産会社”が、住宅設備や生活家電などのIoT機器を横断的につなぐプラットフォームを独自開発した点が大きな注目を集めた。構想としては2018年から温めてきた事業であり、今回の分社化は足掛け8年となる。

スマートホーム市場では、住宅設備機器や家電ごとに異なるアプリや仕様が乱立し、不動産事業者にとっては導入効果が見えにくい状況が続いていた。利用開始時の初期設定を居住者任せにせざるを得ず、機器トラブル時のサポート体制も十分ではなかった。故に、米国や中国に比べ日本ではスマートホーム化が進みにくいという課題があった。

こうした状況に対し、HOMETACTは「メーカーを横断して一括制御できる」ことを最大の特徴として打ち出した。照明、エアコン、給湯、スマートロック、カーテン、テレビ、各種センサーなど各社の機能を一つのアプリに統合し、直感的に操作できるよう設計。ユーザーは煩雑な初期設定を行う必要がなく、ログインするだけで利用を始められる。設置・設定支援、コールセンター、駆けつけ対応など周辺サービスも整え、不動産事業者にとって導入しやすく、生活者にとっても使いやすいサービスを志向してきた。


条件設定による自動制御も可能。外出時や帰宅時、就寝時などの生活シーンに応じて機器を一括制御する「マイルール」機能も当初から打ち出し、例えば「行ってきます」といった一言で照明や空調、掃除機が連動し、「おやすみ」で室内環境が自動調整される。エネルギーマネジメント機能も備え、電力使用の最適化やコスト削減にも寄与する。

特筆スべきは単なる住宅内機器の遠隔操作にとどまらず、不動産管理まで含めた総合的な仕組みづくりを狙っていた点。専用アプリ「HOMETACT」に加え、物件・顧客・設置機器情報を統合管理する管理者向けポータル「TACTBASE」を整備。入退去管理やユーザーサポートまで含めた運営効率化を支える仕組みを同時に構築してきた。この発想は、生活者目線と不動産事業者目線を両立させる現在の「住みごこちDXカンパニー」という立ち位置にもつながっている。

ZEHやZEH-Mといったゼロエネ住宅・建築の標準化に伴い、事業者の差別化要素としてエネルギー領域へ広げる構想も描いてきた。ECHONET LiteとAPI連携を組み合わせたハイブリッド型プラットフォームへの進化やHEMS機能の実装も視野に入れていた。エネルギー管理機能「HOMETACT Energy Window」は、その構想を具体化した例といえる。電力使用量などを“窓から見える風景の変化”として可視化し、自動制御による省エネも実装することで、居住者の快適性と環境配慮を両立させる。

技術面ではクラウドAPIを基盤とし、国内標準のエコーネットライトと国際規格「Matter」の双方に対応することで、今後の機器連携拡大に備える。エネルギー分野ではデマンドレスポンスへの対応なども視野に入れ、住宅内機器の制御を担うプラットフォームとしての役割を強化している。

現在、HOMETACTは連携メーカー30社、接続可能機器数200種類以上、導入エリア全国44都道府県、採用企業数200社まで拡大した。新築・既築を問わず、賃貸マンション、分譲マンション、注文住宅、建売戸建て、リノベーション、買取再販など幅広いアセットに広がっている。導入物件では賃料上昇や空室期間短縮などの効果もあり、既築物件で最大30%超の賃料上昇を実現した事例もある。利用者アンケートでも顧客満足度94%、継続利用意向約88%と高い評価を得ている。

■住宅から社会インフラへ、非住宅・海外展開も視野

今回の分社化は、こうした実績を踏まえて次の成長段階に進むためのもの。専門人材の採用による事業推進力の強化、共同代表制による意思決定の迅速化、さらに外部アライアンスや資本業務提携を進めやすくする体制整備が狙いとなる。三菱地所グループの新規事業として育ててきたサービスを、独立した事業会社として一段と機動的に育成していく構え。目標として、2032年に契約数20万件、売上高100億円の達成を掲げる。2026年度中には契約数1万件への拡大を見込む。

住宅市場は新築着工戸数の減少が続く一方、スマートホームの普及率は上昇が見込まれている。2040年には導入率が6割近くに達するとの見方もあり、既存住宅を含めた巨大な市場が広がる。同社はこうした環境を成長機会と捉え、パートナー企業との連携を軸に事業拡大を進める。経営・戦略チームにはスマートホーム領域のスペシャリスト達が布陣している。

住宅領域にとどまらず、ホテルなど宿泊施設、介護施設、病院・クリニックといった住宅以外のアセットにも展開する。共用部ハンズフリー通行機能「HOMETACT Smart Gate」やIPインターホンとの連携強化など、専有部を超えたシームレスな居住体験づくりも計画。将来的にはスマートホームの普及と標準化をリードし、新たな生活インフラとなることをめざすと共に、日本の住宅設備規格や技術が通用する可能性を踏まえ、メーカーとの協業による海外展開も視野に入れる。構想は膨らむばかりだろう。

不動産価値は立地や築年数で決まるという従来の常識に対し、同社はテクノロジーによる価値創出を打ち出した。住む人の体験を起点に、建てる側、管理する側を含めた「三方良し」を実現することで、住宅のあり方そのものを変革する。スマートホームを単なる設備ではなく、持続的に価値を高める社会インフラへと昇華できるかが今後の焦点となる。

事業本格化当初、橘氏はスマートホームを「住空間に必要な次世代の生活インフラにしていきたい」と語っていた。今回の分社化は、その構想が実証段階から普及拡大のスタートへと移ったことを示す。不動産会社が主導するスマートホームという独自の立ち位置を武器に、住宅の価値や暮らしの質をどう塗り替えていくか。HOMETACTの次の一手に注目が集まる。

〔参照〕
日本の不動産に、選ばれ続ける力を。資産価値を上げるスマートホーム 株式会社HOMETACT 設立
総合スマートホームサービス「HOMETACT」を開発