【論考】次世代を担う?ペロブスカイト型太陽電池の最前線——過熱気味な革新技術の実像
美談。我が国は資源に乏しい。自前でエネルギーを賄えたなら―。巷で革新的と言われ、やや過熱気味なペロブスカイト型太陽電池の実像に迫る。

■ペロブスカイト太陽電池の最前線を議論、実用化に向け展望示す
日本太陽エネルギー学会関西支部は2025年12月10日、大阪市内で2025年度シンポジウムを開催した。テーマは「次世代を担うペロブスカイト太陽電池の開発最前線」。印刷法で形成可能な結晶薄膜材料として注目され、変換効率が約27%に達するペロブスカイト太陽電池の研究動向と今後の実用化を巡り、第一線の研究者が講演した。

シンポジウムでは、ペロブスカイト太陽電池研究の先駆者である桐蔭横浜大学の宮坂 力教授、材料設計と長寿命化研究を進める岡山大学の林 靖彦教授、物理化学的視点から同研究分野の最先端を走る東京大学の瀬川 浩司教授が登壇した。
会場となった大阪公立大学文化交流センターには研究者や技術者らが集まり、オンライン参加者も含め活発な質疑応答が行われた。
大阪・関西万博での展示などを背景に社会的関心が高まる中、同シンポジウムは、ペロブスカイト太陽電池が「実用化間近の技術」であることを改めて印象づける場となった。

■国産原料・ヨウ素は日本が世界トップクラス
ペロブスカイト太陽電池は、ペロブスカイト型結晶構造を持つ材料を発電層に用いた次世代太陽電池。溶液を塗布・印刷するプロセスで製造できるため、結晶シリコンに比べて製造エネルギーが小さく、薄く、軽く、柔軟にできるのが特徴とされる。
宮坂教授が「色素増感太陽電池を研究する中で偶然発見した」ものとして知られる。
主要材料の一つであるヨウ素は日本が世界第2位の産出量(シェア約30%)を誇るという。エネルギー資源の多くを輸入に頼る日本にとって「国産原料で作れる太陽電池」という物語は、エネルギー安全保障と結び付く。

宮坂教授らの研究成果により技術的には存在していたが、世相として注目を集めたのは2024年5月。経済産業省が「次世代型太陽電池の導入拡大及び産業競争力強化に向けた官民協議会」を立ち上げたこと。
大手企業から自治体まで様々な企業・団体が参画した。協議会では、導入目標、価格目標の策定、国内サプライチェーン構築、海外市場戦略などが検討項目に並んだ。

戦略の方向性は次の通りである。「太陽光発電が直面する様々な課題を乗り越えながら、再エネの導入拡大・エネルギーの安定供給の実現・産業競争力の強化等に貢献しつつ、世界の市場において稼げる再エネ産業として成長し、我が国のGXの牽引役となることが期待される」
「2025年までに20円/kWh、2030年までに14円/kWhが可能となる技術を確立させる。生産体制についても、2030年を待たずにGW級の構築を目指す」
「将来的に、更なる規模の生産体制を構築するとともに、2040年には自立化が可能な発電コスト(10円/kWh~14円/kWh以下)の実現を目指す」とし「世界をリードする「規模」と「スピード」の投資」が必要との考え方が強調された。

■次世代太陽電池戦略に突きつけられる時間との戦い
実現可能性。勝ち筋はどうか。第一回目の協議会では太陽電池産業の振り返りと反省が示された。
曰く、日本はかつて、太陽電池で世界を席巻。サンシャイン計画に始まる産官学連携により、2000年代前半には世界シェア5割超を誇った。
ただ、結晶シリコン太陽電池の量産局面で投資判断が遅れ、海外勢が巨大な生産能力を構築する中で、競争力を失った、と。
「技術で勝って勝負で負けた」と言えば華々しいが「2005年以降、中国等の海外勢に押され、日・米・独勢は一斉にシェアを落とし、日本のシェアは直近1%未満」「原料であるシリコン・ウエハも9割が中国またはその他の企業で構成されている」との現状が分析されている。

要するに、かつて世界を席巻した日本の太陽光産業が競争力を失った反省を踏まえ、ペロブスカイト型太陽電池を軸に産業基盤の再構築を狙う。
「日本発の技術で、世界的にシェアの高い国産原料でもう一度」という訳である。
言葉だけを並べれば過去の反省を踏まえた「正しい戦略」に映る。
だが、示されている目標や時間軸を見る限り、過去の教訓が十分に活かされているとは言い難い。

というのは結晶シリコン太陽電池の発電コストがすでに極限まで下がっているという現実がある。
世界の発電コストはすでに10円/kWh以下まで低下。また海外では1社単独で50GWを遥かに超え100GW級の巨大な生産キャパシティが構築されているケースもある。
この状況下で「2030年代に本格導入」「2040年に数GWの生産体制」という議論をしている時点で、すでに一周遅れているとの見方は否定できない。

すでに業界関係者からは「開発を担う企業や研究者には敬意を払うが、そもそも難しいのではないか」との見方が囁かれる。
単結晶系の太陽電池パネル工場を1GW構築するにあたり約100億円は必要と言われている。単純比較はできないが仮に世界をリードするのであれば投資額が一桁以上小さい。
日本太陽エネルギー学会の場でも、海外メーカーの存在はすでに「脅威」として語られていた。研究者は技術の進展に手応えを感じつつも、量産と市場形成のスピードで海外に引き離される危機感を隠さなかった。

■太陽エネルギーの本質とは?
無論、国内に生産拠点があることはエネルギー安全保障の観点から一定の意味をもつ。イノベーション・技術開発は世界を変えていく。
ただ、太陽エネルギーの本質は何だったのか。競争に勝つことか、シェアを奪うことか。
先人たちが目指してきた夢。
それは地球をより平和で、安定した世界にするためのエネルギーの構築ではなかったか。
現実を直視せずに楽観的な目標を掲げる競争は、再び同じ失敗を招く可能性がある。
世界と争うのではなく、役割分担や共存を含めた戦略を描く余地がこの魅力的なペロブスカイトという響きにはある。
それを「美談」で終わらせるのか、「現実的な選択肢」にできるのか。今問われているのは、技術そのものよりも、私たちの向き合い方なのかもしれない。
〔参照〕
▷日本太陽エネルギー学会:次世代を担うペロブスカイト太陽電池の開発最前線
▷第1回 次世代型太陽電池の導入拡大及び産業競争力強化に向けた官民協議会
▷次世代型太陽電池の導入拡大及び産業競争力強化に向けた官民協議会 次世代型太陽電池戦略
▷第9回 次世代型太陽電池の導入拡大及び産業競争力強化に向けた官民協議会
▷Renewable Power Generation Costs in 2024