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【独自】新電元工業:時代の一歩先をゆく老舗電源メーカー、デザイン性を高めた急速充電器でインフラ構築 「EVに乗る⼈の『うれしい』」をめざす

2025.07.23

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時代の一歩先をゆく-。それは必ずしも勝敗を意味しない。
汎ゆる業界において数年先の市場を想像して動き出す企業がある。無論、そのひとつのアイデアは競合を刺激し、追随され、そして、また個社にとっては新たな一歩を踏み出す動機となる。培った技術は次なる創造へ。こうして技術やサービスの進歩は循環していくことになる。半導体やスイッチング電源をコア技術に再エネ関連製品を手掛けてきた新電元工業もその一社である。次なる視座は?同社営業本部 マーケティング部に話を聞いてみた。

同社は1935年に創業した電気炉メーカー「電元社」を源流とし、1949年に整流器部門を継承する形で発足した。戦後はセレン整流器からゲルマニウム・シリコンへと技術革新を進め、電話局向け電源装置やパワー半導体で成長を遂げた。1980年代以降はアセアン諸国を中心に生産拠点を拡大。現在、国内14・海外16拠点を構え、年商1050億円を超えるグローバル企業に成長した。二輪車向けレギュレータやブリッジダイオードで世界トップシェアを持つパワーエレクトロニクスメーカーの老舗である。自社の三大コア技術である半導体・回路・実装を強みに、環境対応型製品の開発にも注力している。

脱炭素領域においては固定価格買取制度スタート前夜。まだ住宅市場が大半を占めた2009年頃。「当時、需要はほとんどなかったが、必ず市場は拡大していく」との方針で産業用パワーコンディショナを開発していた。そして、数年後。FIT制度開始直後に始まった50kW未満の低圧産業用建設ラッシュに絶縁型・三相10kW『SOLGRID』シリーズの需要は一気に高まった。月産数百台から数千台(当時)へと生産キャパを伸ばすなどで再エネ普及を牽引した。長期延長保証を打ち出し、住宅用ではOEMを想定した蓄電ハイブリッド、産業用では自家消費型、VPP対応を展開するなど一歩先をいった。残念ながら2018年に終売となるが、その実績は累計15万台規模に至る。

もう一つの流れがある。同社が太陽光発電向けPCS事業と並行して展開していたのが電気自動車向けのEV充電器事業だった。「2010年代前半に通信大手子会社の社用車を電動化していくにあたり充電インフラが必要となったことから開発がスタートした」という。当時は急速・普通充電の両方を手掛けるメーカーは少なかったとされる。その後、大手自動車・二輪車メーカーとの協業で充電器事業を本格化させた。

今や最大出力150kWの超急速充電器、中速帯では50~90kW、複数台同時充電や限られた設置スペースへの対応、景観に配慮した「見せない普通充電器」、法人や商用施設での運用管理など多彩なラインナップを揃える。V2Xやワイヤレス給電など次世代技術にも取り組み、EV社会の基盤整備を進める。「すべてはEVに乗る⼈の『うれしい』を充たすために」をコンセプトにデザイン性に特化した製品『EV充電器シリーズMITUS(ミタス)』を世に問う。

全国のEV充電器は合計約3.6万台、うち急速充電器の設置台数は約1万台という統計データがある。とはいえ年間導入ペースは数百台規模にとどまり、市場はなお黎明期にある。太陽光発電のような明確な投資回収モデルは確立されておらず、導入は商業施設や駐車場などによる集客・CSR(企業の社会的責任)を目的とした判断に委ねられている。補助金の存在も大きく、事業の継続性には課題が残る。

一方で、電動車の普及や政府の成長戦略に沿った充電インフラ整備の推進を受け、「ガソリンスタンドやカーディーラーの需要が少しずつ高まっている」など市場は中長期的に拡大基調にある。純粋メーカーの製品開発が先行して加速するだけでなく、自動車大手と電力会社が共同出資するe-Mobility Powerを中心に充電器の調達から設置、保守、電力契約まで一貫したインフラ整備が進められつつある。認証や課金といったシステムはネットワークベンダーが提供し、複数のメーカーが充電器を供給する構図が出来上がっている。初期費用ゼロ円モデルを展開するベンチャーの参画も活況の様相を呈す。

同社営業本部 マーケティング部は「市場立ち上げ当初から製品を供給しており、累計シェアは公共の急速充電器市場ベースで10%程度に達している。今後も設置現場や充電方法のニーズを反映させ、蓄積した技術・ノウハウを生かしてインフラ構築に貢献したい」と話していた。

〔参照〕
新電元工業
ゼンリン:EV充電スタンドデータ数
e-Mobility Power