【学会】日本太陽エネルギー学会:PVアーク保護とMLPEテーマに第41回セミナー開催、太陽光発電の安全性と高効率化を議論

日本太陽エネルギー学会・太陽光発電部会は2月10日、第41回セミナー「JIS C63027(PVアーク保護)とモジュールレベル・パワーエレクトロニクス(MLPE)の最近の技術動向」を東京都港区の機械振興会館およびオンラインのハイブリッド形式で開催した。研究機関、メーカー、関連団体の技術者らが登壇し、太陽光発電設備における安全対策と発電性能向上を両立する最新技術について議論が行われた。
近年、太陽光発電は主力電源化に向け導入拡大が続く一方、火災事故や施工品質への懸念が社会的課題として浮上している。2025年11月にはPV直流アーク検出・遮断規格「JIS C63027」が制定された。モジュール単位で制御・監視を行うMLPE(Module Level Power Electronics)は、海外市場を中心に普及が進み、日本でも導入機運が高まりつつある。
セミナー冒頭、日本太陽エネルギー学会理事で産業技術総合研究所の加藤和彦氏は、太陽光発電の持続的普及には発電量向上だけでなく「安全性の標準化」が不可欠であると指摘。技術と制度の両輪による信頼性確保の重要性を強調した。

■直流アークの危険性とJIS規格整備の意義
大阪電気通信大学の濱田俊之教授は、PVアーク保護規格JIS C63027の技術的背景を解説した。規格制定の契機となったのは2023年に発行されたIEC 63027-1。日本でも評価手法の統一が求められていたという。
太陽光発電設備の火災はパワーコンディショナー起因が多いものの、配線や接続部、モジュール内部でも一定数発生しており、その一因としてアーク放電の関与が指摘されている。ケーブル被覆の損傷やコネクタ接触不良、水分侵入などが発生要因となり得る。
アークは数千度に達する高温放電。交流回路と異なり直流回路ではゼロクロスが存在しないため持続しやすい。特にストリング途中の不連続で発生する直列アークは火災へ直結するリスクが高い。JIS C63027ではアーク発生後2.5秒以内、または一定エネルギー閾値以前に検知・遮断する性能が求められる。
濱田教授は、規格整備によって国内安全対策の基盤が整ったと評価する一方、焼損後は原因特定が困難という課題を指摘。今後、アーク検知装置のログ活用が進めば事故解析精度が向上し、有効な対策構築につながる可能性を示した。
■アーク検知技術の実用化と既設設備への対応
企業講演では戸上電機製作所の川副慶之氏がアークフォルト監視装置『Arc CATCHER(アークキャッチャ)』を紹介した。太陽光設備は配線が屋根裏や壁内に設置されるケースが多く、異常の早期発見が難しい。同社は配電機器で培った技術を応用し、2015年頃から太陽光向けアーク監視装置を開発。全国20カ所以上で長期実証を行った。
実証では接続部のネジ緩みなど実際の不具合検出に成功し、電流計では異常が確認できない状態でも高周波成分としてアークが継続するケースが確認された。開発した「アークキャッチャ」は微小ノイズを解析する独自ロジックにより誤検出を抑えつつ発生ストリングを特定できる点が特徴で、既設設備への後付けも可能とする。
更新が難しい既存発電所の安全対策として期待され、直流設備のリスク管理が新たな市場テーマになりつつあることを示した。
■MLPEがもたらす「安全」と「最適発電」
MLPE推進協議会の難波圭一氏は、日本の太陽光市場が生活空間に近い屋根上設置へ移行している点を指摘した。東京都の住宅設置義務化などにより、住宅分野での安全性確保は不可避の課題となっている。
MLPEはモジュール単位で出力制御や遮断を可能とし、ラピッドシャットダウンによる安全性向上、部分影による出力低下抑制、遠隔監視による保守効率化を実現する技術である。欧米では消防士の安全確保を背景に制度化が進む一方、日本では制度整備が遅れていると指摘した。
同協議会は消防機関への啓発活動や識別標識制度の提案などを進めており、JIS C63027との連携による安全思想の普及を目指す。難波氏は「災害大国である日本こそMLPEの価値が高い」と述べ、世界標準の安全設計導入の必要性を訴えた。

■多層防御型安全設計への転換
RE-INNOVATIONSの永沢建氏はSolarEdgeを例に、直流側安全対策の進化を紹介した。従来の太陽光発電は交流側に比べ直流側管理が不十分で、単一機能への依存では誤検知や検知漏れの課題が残る。
同社はアーク検知(AFCI)、異常発熱監視(Sense Connect)、SafeDC™、アーク障害を事前に予防するなど技術を組み合わせた「多層防御」設計を採用。パワーオプティマイザは断絶時に電圧を約1Vまで低下させ、災害時でも安全状態へ移行する。
BIPVや壁面設置など人が触れ得る場所への導入拡大に伴い、停止後も高電圧が残る従来方式のリスクが顕在化している。モジュール単位監視は遠隔診断や予防保全にも寄与するとの認識を示した。
■MLPEの多様化とスマートPVへの進化
華為技術日本の新井龍人氏は同社DCオプティマイザーの技術動向を解説。モジュール単位で電圧・電流を最適化することでミスマッチ損失を抑制し、日本の複雑な屋根条件に適する技術とした。
AIによるアーク検知や温度監視、ラピッドシャットダウン機能を統合し、安全性と発電量向上を両立。実証では10%程度の発電量改善が確認されたという。今後はセル単位最適化などさらなる分散制御が進む可能性も示された。
■マイクロインバータが示す分散型電源の方向性
Enphase Japanの栗原武士氏は、パネル単位で交流変換を行うマイクロインバータ方式を紹介した。影の影響を局所化できるほか、早期交流化により配線電圧を抑制でき、安全性向上に寄与する。
同社は北米住宅市場で高いシェアを確立。日本では停電時利用を可能にする自立運転コンセント付きゲートウェイ投入を予定しており、災害対応ニーズへの適合を図る。
都市住宅や狭小地でも発電機会を拡大できる点を強調し、蓄電池やエネルギーマネジメントとの統合による分散型エネルギーシステムへの発展を見据えた。

■「安全性」と「高度制御」が次世代PVの軸に
後半のインタラクティブディスカッションでは、MLPE普及に向けた制度課題やコスト議論などが論点となった。参加者からは、太陽光発電が生活空間へ近づくほど、安全設計を前提としたシステム構築が不可欠になるとの認識が共有された。
今回のセミナーは、PVアーク保護規格の制定を契機に、日本の太陽光発電が「発電量拡大」から「安全性と高度制御の両立」へと転換しつつある現状を示す場となった。MLPEを核とした分散制御技術と標準化の進展が、今後の国内市場形成を左右する重要な要素となりそうだ。
〔参照〕
▷太陽光発電部会第41回セミナー「JIS C63027(PVアーク保護)とモジュールレベル・パワーエレクトロニクス(MLPE)の最近の技術動向」
▷大阪電気通信大学 高電圧電力工学研究室(濱田研究室)
▷アークフォルト監視装置 Arc CATCHER
▷MLPE推進協議会
▷RE-INNOVATIONS
▷SolarEdge
▷華為技術日本
▷Enphase Energy