【ゼミ】名古屋市:中小工務店向けZEHセミナー開催―ZEH普及の先導師エコワークス小山代表がGX志向型住宅の売り方を指南

名古屋市は12月9日、市内で住宅を建築する中小工務店などを対象に「中小工務店向けZEHセミナー ―GX ZEHを見据えて―」を開催した。ZEHの基礎から最新の政策動向、新たに整理された「GX ZEH」の考え方など実務に即した取り組み事例を共有した。
住宅分野は、日本の温室効果ガス排出量の中でも一定の割合を占め、エネルギー消費量の削減と再生可能エネルギーの導入を両立する住宅の普及が求められている。ZEHはこれまでその中心的な役割を担ってきたが、GX政策の進展に伴い、住宅に求められる性能水準や社会的役割は変化しつつある。
今回のセミナーは、地域工務店におけるZEHの建築を促し、GX時代の住宅づくりにどう対応すべきかを整理する場として位置付けられた。冒頭挨拶で名古屋市環境局脱炭素社会推進課の土屋課長は「セミナーを通して、住宅の建築の際には、ZEHなどの環境に配慮した住宅をご提案いただくなど、市内住宅の脱炭素化にご協力いただきたい」と話していた。
■経産省がZEH政策とGX ZEHの位置付けを解説
プログラムの冒頭では、経済産業省資源エネルギー庁省エネルギー課の宮岡課長補佐が登壇し、ZEHの基礎知識から取り組む必要性、GX ZEHの定義等について説明した。GX先行投資を踏まえた国の政策動向、GX政策全体の中で住宅が果たす役割が整理され、制度の背景理解を深める内容となった。
GX ZEHは、従来のZEHの枠組みを踏まえつつ、より高い省エネ性能、脱炭素への貢献を意識した概念として整理されたもの。現在は先行して一部の補助要件となっているが2027年度から新規の認証としてスタートする。

『「GX ZEH」及び「GX ZEH-M」の定義(出典:第49回省エネルギー小委員会 事務局資料「更なる省エネ・非化石転換・DRの促進に向けた政策について」P85より抜粋)
仕様面では断熱等性能等級6以上の外皮性能を基本とし、高効率な給湯・空調・換気設備等の導入により、再生可能エネルギーを除いた一次エネルギー消費量を概ね35%以上削減する水準が設定された。加えて自家消費に資する設備が求められ、定置用蓄電池や高度エネルギーマネジメントの導入、推奨事項としてEV充電/充放電設備等 が要件定義されている。
講演では、単なる補助金対応にとどまらず、中長期的な住宅政策の方向性を見据えた取り組みが重要であるとの認識が示された。「2050CN目標の達成に向け『ストック平均で現行ZEH水準の省エネ性能を確保』するには、より高い省エネ性能が必要。遅くとも2030年度までに省エネ基準はZEH水準への引き上げが予定されている」との背景が説明された。すでに注文戸建住宅(2024年度)のZEH普及率は42%に到達。「次なる目標としてのGX ZEH」は住宅市場の主戦場になりそうだ。

『今後のスケジュール(案)』(出典:第48回省エネルギー小委員会 事務局資料「更なる省エネ・非化石転換・DRの促進に向けた政策について」P44より抜粋)
■名古屋市が住宅分野の脱炭素施策を紹介
続いて、名古屋市環境局脱炭素社会推進課の矢島課長補佐が登壇し、住宅分野における市の脱炭素化に向けた取り組みを紹介した。国の制度と自治体施策を接続する形で、地域レベルでの住宅脱炭素化の方向性が示され、市内で事業を展開する工務店にとって実務に結び付く情報が共有された。
市では『名古屋市地球温暖化対策実行計画2030』を策定。2030年度までに市域の温室効果ガス排出量を2013年度比で52%削減する目標を掲げ、達成に向け家庭部門、とりわけ住宅の省エネ化・再エネ導入を重要な柱に位置付けている。新築・既存住宅の双方を対象に、断熱性能の向上や高効率設備の導入、太陽光発電の普及拡大を一体的に進めている。

(出典:名古屋市地球温暖化対策実行計画2030)
計画を具体的に後押しする施策として「住宅等の脱炭素化促進補助金」を紹介。同補助金は、国のZEH関連補助制度などと併用可能な仕組みとし、高断熱化や省エネ設備、再生可能エネルギー設備の導入を対象に、住宅分野での脱炭素投資を促進する内容となっている。講演では、補助対象となる設備の考え方や、国制度との役割分担についても整理され、工務店が施主提案に活用できる実務的な視点が示された。
■エコワークスに学ぶGX志向型住宅の売り方、SNS60万人・WEB集客8割でZEH率99%を実現
最後にZEHやLCCM住宅普及の先導役として知られるエコワークス代表の小山貴史氏が登壇し、同社が実践してきた集客・受注の具体像を紹介した。講演の中心となったのは、SNSを起点とした顧客獲得の手法、ZEH・GX志向型住宅を無理なく受け入れてもらうための説明プロセスだった。
同社はコロナ禍を契機にSNS発信を本格化。現在はインスタグラムをはじめとする各種SNSのフォロワー数が合計約60万人に到達。「かつては総合住宅展示場への出店を行っていたが現在は受注の約8割がWEB経由」となり集客構造が大きく転換したという。

エコワークスが展開するSNSの例
顧客への提案では、まず「木の温かみ」を生かした住宅デザインや同社の家づくりの思想に共感してもらうことを重視。そのうえで、ZEHやGX志向型住宅の性能や価値を説明する流れを取っている。性能を前面に押し出すのではなく、エコワークスそのものを選んでもらった後にZEHを提案することで、自然な理解につなげている点が特徴。
同社のZEH率は、ZEH・GX ZEHを大きく上回るLCCM住宅を含めて99%を実現している。太陽光発電については、将来的な電気自動車の普及を見据え、約9kWの大容量システムを標準的に提案。長年にわたる設計・施工ノウハウに加え、これまで建設してきた施主の実データを基に、光熱費や暮らしの変化を具体的に示すことで高い納得感を生んでいる。
講演では「将来の暮らしから逆算して、いま提供すべき住宅を考えることが重要」と強調。補助制度への対応にとどまらず、将来の生活環境やエネルギー事情を見据えたバックキャスティングの思考が、GX時代の住宅づくりには欠かせないとの認識が共有された。
■GX時代に求められる中小工務店の役割
ZEHはすでに「知っている」段階から、「どう取り組むか」「どう事業に落とし込むか」が問われるフェーズに入っている。GX政策の進展により、住宅はエネルギーを消費する存在から、エネルギーと社会をつなぐインフラとしての役割を担い始めている。
名古屋市が主催した今回のセミナーは、制度理解と実務対応をつなぐ場として機能した。参加者同士や講師との情報交換も行われ、地域工務店にとって実践的な学びの場となった。
GX ZEHへの対応は、今後の住宅事業の競争力を左右する要素となる可能性がある。今回共有された知見は、地域に根差した住宅づくりを進める中小工務店にとって、次の一手を考えるための基盤となりそうだ。
〔参照〕
▷ZEH・ZEH-Mの普及促進に向けた今後の検討の方向性について
▷第49回 総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会 省エネルギー小委員会
▷事務局資料 更なる省エネ・非化石転換・DRの促進に向けた政策について
▷第48回 総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会 省エネルギー小委員会
▷事務局資料 更なる省エネ・非化石転換・DRの促進に向けた政策について
▷名古屋市地球温暖化対策実行計画2030
▷名古屋市地球温暖化対策実行計画2030 概要版
▷「木の家専門店」エコワークス公式チャンネル〔YouTube〕
▷「未来のための家づくり大学」有識者や専門家に学ぼう! by Eco Works〔YouTube〕
▷ecoworks_official〔Instagram〕