【独自】政府が推進する次世代住宅「ZEH(ゼッチ)」とは何か──ZEH推進協議会 代表理事 坂本雄三 東京大学名誉教授が語る 住宅・建築の脱炭素戦略
脱炭素社会の実現に向け、住宅・建築分野の転換が急速に進んでいる。その中心に位置づけられているのが、政府が推進する「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」だ。しかし、この次世代住宅の本質を語れる専門家は決して多くない。ZEHの概念が国の委員会で初めて定義された2010年当初から中心的役割を担い、日本の住宅環境政策の方向性を導いてきたのが、ZEH推進協議会 代表理事 坂本雄三 東京大学名誉教授である。坂本教授が、家電製品協会が創設する新資格「ZEHコーディネーター」発表記者会見で語った住宅・建築の脱炭素戦略は、今後の住まいのあり方を読み解くうえで極めて示唆に富むものだった。
■ ZEH誕生までの半世紀──「断熱化」から始まった住宅の進化
ZEHという言葉が登場するはるか以前から、日本の住宅政策は「環境とエネルギー」という課題に直面してきた。
「1972年から87年にかけて2度のオイルショックが起こり、1979年の省エネ法制定、1980年の住宅省エネ基準の策定を経て、住宅の断熱化が本格的に進んでいく」
その後も、1999年の「次世代省エネ基準」制定、2010年の「住宅事業建築主基準」による設備基準導入など、住宅性能向上は段階的に進化してきた。設備分野でも、インバーターエアコン、エコキュート、LED照明、熱回収換気など、省エネ技術が飛躍的に発展した。
そして2010年、経済産業省の研究会「ゼロ・エミッション・ビルの実現と展開に関する研究会」で「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」が初めて公式に定義される。坂本教授もこの委員会の委員長として議論の中心にいた。
「ZEHとは、建物の外皮性能や設備効率を高めたうえで、太陽光発電などの創エネ技術を組み合わせ、年間の一次エネルギー収支をゼロに近づける住宅。省エネが第一歩であり、基本とする」
■ 政策が後押ししたZEH普及と「良い暮らし」の再定義
2012年の固定価格買取制度(FIT)の導入で太陽光発電の普及が加速し、2014年にはZEH補助金制度も大規模化。2025年には省エネ基準が全面義務化された。住宅・建築分野の脱炭素化は新たなステージに入ろうとしている。
坂本教授は、ZEHの本質を「良い暮らしの実現と省エネ・脱炭素の両立」にあると指摘する。
「快適な住環境や利便性を追求すれば、エネルギーや資源の消費は避けられない。だからこそ、省エネと脱炭素の視点が不可欠。学術的に『良い暮らし』を定義することは難しいが、個人や家族が実現したい暮らしの形を定め、その上で持続可能性を確保することが重要」
ここ20〜30年で住宅設備の進化は目覚ましい。高断熱窓、全館空調、高断熱浴槽、エコキュート、LED照明、システムキッチンなどが普及。ZEHは、こうした技術進化を土台にした次のステップと言える。
■ 住宅・建築における脱炭素戦略4つの方策
ただ、脱炭素戦略の全体像はより広い。坂本教授は住宅・建築分野で脱炭素化を進めるための4つの方策を挙げる。
①省エネ:高性能外皮や高効率設備によってエネルギー消費を最小化
②創エネ:太陽光発電などの創エネ技術を組み合わせ消費エネルギーを自ら賄う
③材料・工法の省CO₂木造化:木造化や植林により大気中の炭素を吸収・固定化し、建材段階から排出削減に貢献
④長寿命住宅・建築/リフォーム・メンテ継承:建物の寿命を延ばし、改修や継承を通じてライフサイクル全体のCO₂排出を抑制
ZEHは①と②の両立で実現される。つまり、ZEHは出発点なのである。省エネと創エネに加え、建材や建物寿命の観点を組み合わせることで初めて、住宅建築全体が真に脱炭素化されると言えよう。
■ 新時代へ──「ZEHコーディネーター」資格が担う役割
こうした流れを受け、家電製品協会 認定センターは2026年9月、新たな資格制度「ZEHコーディネーター」を創設する。初回試験は同年秋に実施され、資格取得者はZEH普及の最前線で、設計・施工・設備・政策の橋渡し役を担うことが期待されている。
住宅業界が本格的なGX(グリーントランスフォーメーション)時代に突入するなかで、ZEHの知識と実践力を備えた人材の重要性は増す一方。コーディネーター資格は、その担い手を育てる基盤となる。
ZEHは単なる省エネ住宅ではない。人々の暮らしの質を高めながら、エネルギー利用とCO₂排出を最小化し、持続可能な社会を支える住宅の新しい姿である。坂本教授が語るよう、住宅の脱炭素戦略はZEHから始まり、建材やライフサイクル全体へと広がっていく。
2050年カーボンニュートラルの実現に向け、住宅・建築分野の果たす役割は大きい。いま、我々は“暮らしの質”と“地球の未来”を両立させる住まいづくりの転換点に立っているのかも知れない。
〔参照〕
▷一般社団法人 ZEH推進協議会
▷ZEHコーディネーター資格プレサイト
▷ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)に関する情報公開について