【独自】CEATEC2025:次世代住宅ZEHの次を考える―世界標準規格Matter登場でスマートハウスとホームは融合なるか?

毎年恒例―。中秋。CEATEC 2025が10月14〜17日の4日間、千葉県の幕張メッセで開催された。AI全盛期を迎えた今年、会場の空気はかつての「IoTブーム」を軽やかに飛び越え、生活の隅々まで入り込む「スマート化」の実装段階に突入したかのようだった。学生から企業関係者、自治体関係者まで総数9.8万人を超える幅広い層が来場。この中で注目を集めたキーワードのひとつが、世界で急速に普及し始めている通信規格「Matter(マター)」である。
スマートホームの世界標準規格として注目を集める Matter。2022年の正式リリースからわずか3年で、対応デバイスが世界中で急拡大し、スマートホーム市場の勢力図を塗り替えつつある。これまでメーカーごとに異なる接続仕様が乱立していた業界に「共通言語」をもたらし、デバイス連携の壁を下げることで消費者利用の裾野を一気に広げている。
この潮流を象徴するかのように今年の CEATEC 2025 では「スマートホーム2.0がもたらすスマートホームの未来」と題したディスカッションが開催された。標準化を主導する Connectivity Standards Alliance(CSA) のCEO、トビン・リチャードソン 氏は、この3年間の成長を「3歳児が6フィートに成長した」と表現。「現在860社以上が参画し、世界最大級のアライアンスとなった」とその広がりを指摘した。
■Matterって何?
MatterはIPベースの通信規格を採用し、メーカーが容易に開発・接続できる環境を提供。異なるメーカーの製品間でもシームレスな連携を可能にするもの。企業は一度の認証で複数地域・市場などに対応できるようになる。無論、住宅だけでなく都市空間や公共施設にも応用範囲が広がり、今後のバージョンアップではセキュリティ認証やアクセス制御の共通仕様も整備される見通し。
日本でも2024年にCSA日本支部が設立され、普及活動が本格化。代表にはスマートホーム分野の第一人者である 新貝文将 氏(X-HEMISTRY 代表)が就任し、国内企業への理解促進とエコシステム構築を進めている。Matterの標準化が、スマートホームの「次の10年」を形づくる鍵となりそうだ。

■スマートホームの現在地 「誰が勝つか」ではなく、「どう産業全体を広げるか」──。
すでに家電や住宅設備の“便利なオプション”ではなくなりつつある。共通規格の登場により、不動産・セキュリティ・エネルギーといった異なる産業の融合が進み「インフラ」へと近づく。特にMatterの普及は、業界ごとにバラバラだったシステムを“ひとつの言語”でつなぐ起爆剤となりうるものだろう。
三菱地所 住宅業務企画部 橘 嘉宏 統括は2022年に開発した独自開発の総合スマートホームサービス「HOMETACT(ホームタクト)」に言及。デベロッパーや賃貸住宅管理会社と提携し、集合住宅やマンションを中心に広がりをみせることを示した上で「賃貸物件の差別化要素としてHOMETACTを導入すると賃料9,000〜15,000円の上昇効果」が確認されていることを紹介。スマートホームが「入居者サービス」から「資産価値向上の武器」への変化を指摘した。不動産業界初となるMatter対応も始めると共に今後は戸建住宅への普及も狙う。
2017年よりスマートホーム「SpaceCore(スペースコア)」を展開し累計500社にのぼる導入績を誇るアクセルラボの取締役 青木 継孝 CTOも「家賃アップや空室対策、業務効率化、防犯強化」など入居者の満足度向上に加えコスト削減といった多面的な成果を強調した。
同社は数年前よりAIスマートホームを企画。2024年には国内初となるMatter対応IoTゲートウェイを開発しクラウドから機器制御までを自社完結させる「純国産スマートホームプラットフォーム」を展開している。
両社は一見すると競合に見えるが、スマートホームやMatterという共通言語を軸に市場拡大を目指す共創関係を築いている。

スマート化の波はセキュリティ業界にも及ぶ。錠前大手の美和ロックは2024年3月、Connectivity Standards Alliance(CSA)に加盟。三菱地所、アクセルラボと共にサービス開発も進める。
“鍵”はもはや防犯だけではなく、人と空間をつなぐデジタルインターフェースなのかもしれない。美和ロック 取締役 木下 琢生 商品開発本部長は安全性や快適性を向上させるMatterへの期待感を示した。
エネルギーを軸としたスマートハウスの第一人者のひとりとして知られる早稲田大学 スマート社会技術融合研究機構 先進グリッド技術研究所 石井 英雄 教授は「スマートメーター、太陽光発電システム、蓄電池、燃料電池、EV/PHV(電気自動車/プラグインハイブリッド車)、エアコン、照明機器、給湯器の重点8機種」とエコーネットライトを中心にエネマネが研究開発されてきた経緯を紹介。
現在議論されている「DR readyインターフェイス」の実装により、カーボンニュートラルの普及拡大、電力の安定供給、小売事業者やアグリゲーターのシステム負荷軽減が期待できると説明。
次世代スマートメーターはIoT対応も計画されており、通信制御環境の整備が進む中で、世界標準規格である Matter も今後の重要な要素になるとの見解を示した。

■「3日で飽きる見える化」から「エネルギーオートメーション」へ
日本国内でエネマネといえばエコーネットだが、Connectivity Standards Alliance日本支部 代表のX-HEMISTRY新貝 文将 代表取締役は「Matterは既存のECHONET Liteを否定するものではなく、異なる規格同士を「共通言語」でつなぐための仕組み」
「たとえば、Aさんが「ボンジュール」、Bさんが「HOLA」と言っても会話が成立しないように、デバイスごとに言語が違えば連携はできない。Matterはその“通訳”となることで、バラバラだった機器間の連携を可能にするもの」と補足していた。
これまでのスマートホームでは「つなげたくてもつながらない」「初期設定や使い方が難しい」「詳しい人でないと使えない」「セキュリティやプライバシーに不安がある」といった課題があった。Matterはこうした「スマートホーム1.0」の壁を取り除き、誰もが簡単に使える環境を整える役割を担う。
注目を集める背景には、Google、Apple、Amazonの3社が共同で開発している点。Wi-FiやBluetoothのように「Matter対応」というマークが、今後は世界中で認知される存在になると見込まれている。
最新バージョンであるMatter 1.4では、太陽光発電や蓄電池、ヒートポンプ、給湯器、EV(電気自動車)など、エネルギー関連機器との連携機能が強化。スマートホームは家電の利便性だけでなく、エネルギーマネジメント分野にも拡張されている。
海外の調査では、スマートホームデバイスのメリットとして、約5割のユーザーが「節電の自動化」や「外出先からの機器操作」があるという。
エネマネ自体は「3日で飽きる見える化」と皮肉られることもあるが、今後は、電気代の削減などを自動で行う「エネルギーオートメーション」へと進化する兆しが世界では見えている。
AIの活用領域としてもエネルギー分野への応用は期待値が高い。住宅内外の環境をWi-Fiやセンサー等で検知し、暮らしの背景に自然に溶け込む「アンビエントセンシング」が広がれば、より高度な自動制御や省エネが実現する可能性がある。
これらの流れの中でMatterは、スマートホームを「便利なガジェット」から「生活インフラ」へと進化させるトリガーと言えそうだ。
翻り、現在普及が浸透してきているZEH。このMatterの登場によりスマート化が進むのであれば、従来、異なる領域に存在していたスマートハウスとスマートホームが融合していくことになるのかもしれない。
〔参考〕
▷CEATEC 2025
▷スマートホーム2.0がもたらすスマートホームの未来
▷Connectivity Standards Alliance
▷X-HEMISTRY
▷HOMETACT
▷SpaceCore
▷美和ロック
▷早稲田大学 スマート社会技術融合研究機構