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【独自】 一般社団法人全国銀行協会:銀行業界がめざす『カーボンニュートラルの実現に向けた全銀協イニシアティブ』とは?

2025.05.12

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一般社団法人全国銀行協会
サステナビリティ推進室・国際室 河田恭吾 氏
サステナビリティ推進室 岩永 典之 室長(右)

ヒト・モノ・カネに加え近年ではコトが重視される―。ビジネスにおいて経営資源を指す表現方法だが、その一角を担う金融業界。特に生活や事業を展開する上で無くてはならない存在はどのようにカーボンニュートラル推進を図るのか。我が国の銀行界を代表する業界団体である一般社団法人全国銀行協会(全銀協)にその方向性を訊いてみた。

金融業界とは資金の流れを仲介・管理・提供する産業全体を指し、一般的にイメージされる銀行だけではない。証券、保険、信販等が含まれ、近年、ITや小売など異業種の参入によりビジネス構造は複雑化する傾向にある。

とはいえ、銀行といえば「汎ゆる資金の流れを中継するハブとして金融業界の中心的存在」と位置づけられる。また一口に銀行と言えど、全国規模で展開する都市銀行(メガバンク)、地域密着型の地方銀行、店舗を設けずにインターネットを介した取引に特化したネット専業銀行など対象とする地域・顧客層・業務範囲によって種類が様々である。


これらの銀行を取りまとめ、同業界の方向性や舵取りを担うのが全銀協である。その起源は1877年に渋沢栄一を会頭とする「択善会」に遡り、戦前・戦後を通し各地の団体や機能等が集約される形で2011年に一般社団法人全国銀行協会が発足、現在に至る。メガバンクを筆頭に地銀、信託銀、ネット専業銀行など日本国内で活動するほぼすべての民間銀行が加盟する事業者団体で約190の銀行が参画する。まさに銀行界を代表する団体である。

具体的な業務内容は「金融経済の調査、銀行業務・事務の改善、決済制度の企画・運営。全銀システムや手形交換、TIBOR(タイボー:銀行間取引金利)といった経済インフラを支え、銀行界の意見集約と政策提言」など多岐に渡る。

脱炭素・カーボンニュートラルへの取り組みについてはどうか。サステナビリティ推進室の岩永室長は「97年に採択された京都議定書を背景に2001年より経団連『環境自主動計画』に参加するなどで気候変動問題への取組みを深化させてきた。2018年度には社会的課題に対し中長期的かつ横断的に対応・検討するための会議体を新たに設置し、会員銀行に対するイベントやセミナーの開催を通した情報提供、調査レポートの発行など銀行業界全体とのコミュニケーションを図ってきた。具体的な行動指針としては2021年に『カーボンニュートラルの実現に向けた全銀協イニシアティブ』(年次更新)を策定するなど脱炭素社会への移行を業界団体として後押している」と話す。


このイニシアティブには「銀行界としての取組みと併せ、わが国銀行界を代表する業界団体として、これらのステークホルダーとの連携・協力において積極的な役割を果たし、産・官・金が一体となって2050年カーボンニュートラル/ネットゼロの実現およびネイチャーポジティブやサーキュラーエコノミーへの移行に向けて統合的に取り組んでいく」という基本方針や各銀行と顧客とのエンゲージメントの充実・円滑化、サスティナブル・ファイナンスの裾野拡大といった具体策が明記されている。

続けて「銀行業界としてはSDGsを経営課題と捉える企業が18年度調査時点で9%だったのに対し24年度は62%に増加。SDGsに関して開示を行う会員銀行は26%から90%へ増加するなど関心や浸透が進んできた。この文脈において脱炭素・カーボンニュートラルへの認識も深まってきていると考えている。CO2排出量削減に関しては各社営業所・店舗等への再エネ導入やグリーン電力の購入など、銀行業界全体では約6割の削減を達成している」と対応が進んでいることを説明する。

総論として業界内での取り組みは加速してそうだ。だが『大手銀行が銀行界でつくる脱炭素を目指す国際的な枠組み「ネットゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA)」から脱退』『邦銀全体へ波及するのでは』といった一部報道が相次いだ。この点について「世界的な流れ、国の政策に則り、銀行業界を含む産官学民が一体となり脱炭素・カーボンニュートラルを推進していくことが求められており、引き続き銀行業界として取組みを積極的に進めていく方向性に変わりはない」と述べた。


「全銀協では脱炭素社会への移行(トランジション)を目指す企業やプロジェクトに対して、段階的な排出削減を前提に資金を供給する仕組みである『トランジション・ファイナンス』に関する情報提供を集約したウェブサイトを新設。会員銀行の営業担当者と顧客とが気候変動対応に向けた対話を支援するサポートツール『脱炭素経営に向けたはじめの一歩』を周知するなど、今後も多様なステークホルダーと連携・協調して脱炭素社会の実現に向け貢献していく」(サステナビリティ推進室・国際室 河田恭吾 氏)。

脱炭素や気候変動対策というパワーワードであっても「あくまでビジネスはビジネス」であろう。実際、槍玉に挙げられたメガバンクだけでなく地方銀行、信用金庫に至る業態各社でスタートアップとの業務提携、資本参加、自治体と地域新電力設立といった動きがみられるのは確か。生活者だけでなく企業の懐具合を把握できる唯一の存在。タッチポイントとして銀行が果たす役割は大きい。

〔参照〕
一般社団法人全国銀行協会
「カーボンニュートラルの実現に向けた全銀協イニシアティブ2025」等の公表について
カーボンニュートラルの実現に向けた全銀協イニシアティブ2025
脱炭素経営に向けたはじめの一歩
全銀協 気候変動特設サイト
トランジション・ファイナンス関連情報