【読解】経済産業省:GX ZEH・GX ZEH-Mの新定義を公表、2027年4月以降適用スタート
経済産業省は脱炭素社会の実現に向け、次世代の住宅性能基準として「GX ZEH」および「GX ZEH-M」を新たに定義した。2050年に住宅ストック全体でZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)水準の省エネ性能を確保し、2030年以降の新築住宅での義務化を見据える。GX(Green Transformation)を冠した新定義は、省エネ性能の飛躍的な向上と再生可能エネルギーの自家消費拡大を柱とし、住宅の「エネルギー自立」を本格的に制度へ組み込んだ。
新たな定義策定の背景にはエネルギー基本計画での議論がある。政府は「2050年までに住宅のストック平均でZEH水準を達成」「2030年度以降の新築住宅ではZEH水準を義務化」という政策目標を掲げた。
経産省は2024年度に有識者委員会を設置し、現行ZEHの定義見直しを進め、パブリックコメントを経て新基準を正式決定した。新たなGX ZEHは「高断熱・高効率設備による大幅な省エネ」と「再エネ導入によるエネルギー自給」を一体化した設計思想が特徴で、エネルギー政策と建築政策の統合的な指針となる。
■戸建て住宅:GX ZEHシリーズ(2027年4月以降適用)
GX ZEHシリーズは2027年4月から適用され、「GX ZEH+」「GX ZEH」「Nearly GX ZEH」「GX ZEH Oriented」の4分類が設定された。
GX ZEH シリーズとは「外皮の断熱性能等を大幅に向上させるとともに、高効率な設備システムの導入により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギーを実現した上で、再生可能エネルギー等を導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロとすることを目指した住宅」とする。
共通要件として、断熱等性能等級6相当の外皮性能を満たし、再エネを除く一次エネルギー消費量を35%以上削減することが求められる。その上で再エネ導入後の削減率によって分類され、GX ZEH+は115%以上、GX ZEHは100〜115%未満、Nearly GX ZEHは75〜100%未満、Orientedは高断熱・高効率設備の導入に重点を置く。

(出典:ZEH・ZEH-Mの普及促進に向けた今後の検討の方向性について資料P.24より)
特筆すべきは、高度エネルギーマネジメントと定置型蓄電池の導入がGX ZEH+/GX ZEH/Nearly GX ZEHで必須化された点。HEMS(家庭用エネルギー管理システム)により再エネ発電量や蓄電量を可視化・制御し、住宅内の空調・給湯設備などを最適化する。再エネ電力の評価対象は敷地内(オンサイト)の自家消費分と余剰売電分を含め、エネルギー自立性を高める設計が求められる。
推奨事項として、敷地内に駐車スペースがある住宅では居住者がEVを所有していなくても、建築士がEV充電・V2H(Vehicle to Home)設備の導入検討情報を提供することが求められる。
GX ZEH Orientedを取得する場合、建築士は再エネ設備の種類(例:太陽光発電)や規模(kW)など導入に必要な情報を建築主へ説明する義務がある。将来的なEV普及や再エネ拡大への住宅側の適応力を強化していく。
■集合住宅:GX ZEH-Mシリーズ(2027年4月以降適用)
集合住宅向けには「GX ZEH-M」シリーズが新たに設けられ、「GX ZEH-M+」「GX ZEH-M」「Nearly GX ZEH-M」「GX ZEH-M Ready」「GX ZEH-M Oriented」の5区分が定義された。
GX ZEH-Mは「外皮の断熱性能等を大幅に向上させるとともに、高効率な設備システムの導入により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギーを実現した上で、再生可能エネルギーを導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロとすることを目指した住宅」とする。評価は運用時ではなく設計時で評価され、住棟単位(専有部+共用部)と住戸単位の評価方法がある。

(出典:ZEH・ZEH-Mの普及促進に向けた今後の検討の方向性について資料P.24より)
共通して全住戸の外皮が等級6を満たすことを前提に、共用部を含む一次エネルギー消費量を再エネ除き35%以上削減することが必須。再エネ導入後の削減率でGX ZEH-M+は115%以上、GX ZEH-M は100〜115%未満、Nearly GX ZEH-M は75〜100%未満、GX ZEH-M Ready は50〜75%未満と定義される。推奨事項として集合住宅でもEV充電・V2H設備導入の説明義務がある。GX ZEH-M Orientedでは再エネ導入に関する情報提供が求められる。
■集合住宅の例外措置と経過措置
制度移行に伴い、角住戸など外皮の3面以上が外気等に面する住戸については、2030年まで断熱等級5を時限的に容認する。ただし全住戸の平均UA値は等級6を満たすことが条件であり、基準未達の住戸については販売主から購入者へ説明義務がある。
現行定義による新規認定は2028年3月まで可能で、それまでに建設された住宅の改修に限っては4月以降も現行定義での取得が認められる。既取得の認定は2028年以降も引き続き有効となる。
新制度は「建てた時点で終わり」ではなく、エネルギーシステムの運用・制御・需要対応力を住宅性能の一部として評価する設計思想が根幹にある。GX ZEH/GX ZEH-Mは単なる建築基準を超え、再エネ主力電源化と分散型エネルギー社会の基盤となる。最終目標としてのLCCMに向け住宅の進化はまだまだ続く。
【出典】
▷ 「GX ZEH」及び「GX ZEH-M」を定義しました
▷ZEH・ZEH-Mの普及促進に向けた今後の検討の方向性について
※詳細は公表資料もご確認ください。