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【政策】令和8年度 脱炭素関連政策10選:ZEH・ZEBなど次世代ゼロエネ建築、企業・自治体など地域脱炭素化・GX支援を加速

2025.09.08

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経済産業省、国土交通省、環境省など関連省庁は8月29日、令和8年度の概算要求を公表した。住宅・建築物の省エネ化を柱とするZEHやZEB、地域単位での脱炭素施策に重点を置き、次世代型住宅や再エネ導入拡大を軸とした予算を盛り込んだ。注目施策10件をピックアップする。

〔参照〕
令和8年度環境省重点施策集(令和7年8月)

■住宅の脱炭素化促進事業(経済産業省・環境省・国土交通省連携事業)【令和8年度要求額 9,000百万円(新規)】
地球温暖化対策計画に基づく2030年、35年、40年の各段階目標や、2050年カーボンニュートラルの実現に向け、住宅分野の省エネ・省CO2対策を抜本的に強化する。戸建住宅や集合住宅のゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)、ゼロ・エネルギー・マンション(ZEH-M)の新築支援に加え、既存住宅の改修や断熱リフォームまでを包括する。

新築住宅のZEH化では、地域区分や性能水準に応じて補助額を設定。一般的なZEHは1〜3地域で55万円、4〜8地域で45万円を補助する。高断熱・高効率設備を備え、再エネ自家消費や高度エネルギーマネジメントを組み込んだ「ZEH+」では、90万円(1〜3地域)、80万円(4〜8地域)まで補助を拡大する。蓄電システムやCLT(直交集成板)、EV充電設備の導入には追加補助を設け、災害時のレジリエンス確保にも配慮する。

集合住宅では、3層以下の低層や4〜5層の中層を対象に、1戸あたり40万円を定額で補助。高層案件は継続採択分に限り、費用の3分の1を定率で支援する。既存住宅の改修支援では、ZEH水準への性能向上改修に最大250万円の補助を設定し、省エネ診断には費用の3分の1を助成する。

断熱リフォーム事業では、トータル断熱改修を行う戸建住宅に最大120万円、集合住宅に最大15万円(玄関ドア改修を含む場合20万円)の補助を行う。部分断熱として居間の窓改修なども対象に含め、段階的な改修を後押しする。対象部位は外壁、窓、玄関ドア、間仕切壁など幅広く設定し、改修市場の裾野を広げる。
住宅の脱炭素化促進事業【エネ特】

■建築物等のZEB化・省CO2化普及加速事業(一部農林水産省・ 経済産業省・環境省・国 土交通省連携事業)【令和8年度要求額 12,463百万円(3,820百万円)】
業務用建築物の新築・改修を通じてZEB化を促進し、長期ストックの排出を抑制する。中核は①省エネ建築物支援(新築ZEB・既存ZEB改修・ストック改修調査)と②ライフサイクルカーボン(LCC)削減型の先導的ZEB(低炭素建材活用を含む)で、ZEBプランナー関与、計量区分ごとの計測・データ管理、需要側設備の通信制御、再エネ導入(新築)などを要件に据える。木材利用協定やCLT等の新たな木質部材、建材一体型太陽電池(BIPV)には優遇を付す。

補助率は延べ面積・用途・ZEBランクに応じ2/3~1/6(上限3~5億円)、調査は1/2(上限100万円)。LCC先導ZEBは21~55%(上限5億円)で、運用だけでなく建設~解体までの排出を算定し、鉄・コンクリート・木材等の低炭素建材の導入費も対象に含める。

対象領域は建築物の枠を越え、③水インフラ脱炭素(上下水道・ダム等)で再エネ・高効率設備の導入支援(CO2削減率30%以上は1/2、15~30%は1/3)、地産地消モデルの構築支援(1/2)、空間ポテンシャル活用の技術実証(委託)へ拡張。④CE×CN同時達成に向けた木材再利用検証で解体材の再利用による排出削減を定量化し、CLT再利用手法の確立・普及を図る。

⑤省CO2化と災害・熱中症対策の同時実現では、高効率空調によるクーリングシェルター整備(1/3、上限1,000万円)、民間建築物の高効率機器更新(1/3、上限3,500万円)、グリーンリース型のテナントビル改修(1/3、上限4,000万円)、空き家の業務施設転用に伴う省CO2改修(1/3、上限1,000万円)を支援。災害時に活動拠点となる独立型施設(コンテナハウス等)への再エネ・空調導入も1/3で後押しする(本体は対象外)。

⑥サステナブル倉庫モデルは、省人化機器と再エネ設備の同時導入を要件に、1/2(上限1億円)で営業倉庫の省CO2化・自動化・レジリエンスを一体で支援する。
建築物等のZEB化・省CO2化普及加速【エネ特】

業務用建築物の脱炭素改修加速化事業(経済産業省・環境省・国土交通省連携事業)【令和8年度要求額6,000百万円(1,200百万円)】(※3年間で総額10,000百万円の国庫債務負担)
既存ビルの外皮高断熱化と高効率空調・照明・給湯機器の導入を一体で支援し、短期での排出削減を狙う。要件は改修後の外皮性能BPIを1.0以下とし、一次エネルギー消費量を省エネ基準から40%(用途により30%)程度以上削減する水準、すなわちZEB基準相当の省エネ性能を満たすこと。エネルギー計測・管理の体制構築も条件に置く。

補助対象は断熱窓、断熱材、高効率空調・照明・給湯などトップランナー目標を超える機器等で、外部の高効率熱源機器からの熱融通も一定条件で対象化する。補助率は原則1/2以内。地方公共団体、民間事業者、各種団体が対象で、既採択の継続案件に対する措置も講じる。省エネ基準比で30~40%削減という明確なしきいを前面に据え、外皮・設備の同時改修を促す。

業務用建築物の脱炭素改修加速化事業

■Scope3排出量削減のための企業間連携による省CO2設備投資促進事業(環境省)【令和8年度要求額3,000百万円(2,000百万円)】※3年間で総額5,000百万円の国庫債務負担
バリューチェーンを構成する代表企業と複数の中小企業取引先が連携し、省CO2設備を導入する取組を補助する。国際的に脱炭素経営が加速する中、大企業に求められるScope3排出削減を背景に、サプライチェーン全体での排出削減を制度的に後押しする。

要件は代表企業がScope3削減目標を掲げ、連携企業との間で本事業による排出量削減見込みについて合意を交わすこと。「GX率先実行宣言」を行っていることも前提条件とした。補助対象は既存設備に比べて30%以上のCO2削減効果が見込める機器・システム。

補助率は中小企業1/2、大企業1/3だが、代表企業が宣言を行い、かつ事業によって年間3,000t以上のCO2削減を達成する場合は大企業も1/2へ引き上げる。補助上限は1事業者あたり最大15億円、最長3カ年。事業形態は間接補助で、対象は民間事業者・団体。開始は令和7年度からを予定する。
Scope3排出量削減のための企業間連携による省CO2設備投資促進事業

■脱炭素技術等による工場・事業場の省CO2化加速事業(SHIFT事業)(環境省)【令和8年度要求額 9,786百万円(2,786百万円)】
中小企業等の工場・事業場で電化・燃料転換・熱回収といった脱炭素技術を導入する設備投資を支援し、産業部門のCO2排出削減を前倒しする。事業は補助と委託を組み合わせ、効果の高い改修モデルの普及展開まで視野に入れる。

柱となるのは①省CO2型システムへの改修支援。蒸気・空調・給湯・工業炉・コージェネレーションなど主要系統で30%以上、工場全体で15%以上の排出削減を条件に、電化や熱回収による抜本的改修を支援する。補助率は1/3、上限は単独案件で1億円、共同導入など大規模案件で5億円と設定。単なる高効率機器への更新は対象外とし、構造的なシステム転換を促す。

②DX型CO2削減対策実行支援では、センサーやクラウドを用いたデータ駆動型の運用改善を重視。補助率3/4、上限200万円で、中小工場が短期間で削減効果を得られる施策を支える。取得データは改修設計や最適容量算定にも活用し、効果の見える化を通じて投資判断を容易にする。③課題分析・調査検討では、過年度事業の成果を整理し、優良事例や課題解決策を体系化して産業界全体へ横展開する。

事業スキームは間接補助(①②)と委託(③)の組み合わせで、対象は民間事業者・団体。実施期間は令和6年度から11年度までの長期を想定する。
脱炭素技術等による工場・事業場の省CO2化加速事業(SHIFT事業)

■データセンター等デジタル基盤の脱炭素化に向けた環境配慮技術の開発・実証事業(環境省・総務省連携事業)【令和8年度要求額1,770百万円(新規)】
生成AIやデジタル化の加速に伴い需要が拡大するデータセンターの電力消費・CO2排出量増を抑制する狙いで、省エネ・省CO2型の新技術を開発・検証し、社会実装を急ぐ。

事業は二本立て。第一に、データセンターの冷却や電源系統、サーバー運用に関する新技術の開発・実証を行う。高度空調、液浸・液冷方式、未利用エネルギーを活用した冷却手法などを対象に、消費電力の削減効果を検証する。加えて、システム全体の最適化制御や負荷に応じた電力マネジメントなど、運用面の効率化技術も支援する。第二に、環境配慮型デジタル技術の市場調査やユースケース検討を実施し、効果的な社会実装に向けた方策を整理する。

事業形態は委託・補助併用で、補助率は1/2。対象は民間事業者・団体で、令和8年度から11年度までの4年間を計画する。
データセンター等デジタル基盤の脱炭素化に向けた環境配慮技術の開発・実証事業

■商用車等の電動化促進事業(経済産業省・環境省・国土交通省連携事業)【令和8年度要求額 30,000百万円(令和6年度補正予算額 40,000百万円)】
2050年カーボンニュートラルに向け、運輸部門の排出削減を狙う。日本のCO2排出の約2割を占める運輸分野では、トラック・バス・タクシーといった商用車由来が約4割を占める。産業部門全体の35.1%のうち、建設機械も約1.7%を占め、電動化は不可欠とされる。

支援対象はBEV(電気自動車)、PHEV(プラグインハイブリッド)、FCV(燃料電池車)など。トラックやバスは標準的燃費水準車との差額の2/3を補助、タクシーは本体価格の1/4を補助する。EV・FCVバスやEVタクシー、PHEVタクシーが想定対象。建機は国交省が認定した「GX建機」を補助対象とし、差額の2/3を支援。車両・建機と一体で導入する充電設備も補助対象に含め、本体価格の1/2を上限に支援する。

制度設計では、省エネ法に基づく非化石エネルギー転換目標を踏まえ、中長期導入計画を策定した事業者を優先。非化石エネルギー転換の影響を受ける事業者も対象とし、野心的なBEV・FCV導入目標を掲げた企業へのインセンティブを強める。公共工事でのGX建機利用を段階的に推進する方針とも連動させ、建機市場での導入を加速させる。

間接補助事業として民間事業者や自治体を対象に、補助率は差額の2/3、本体価格の1/4などを基準に設定。車両調達コストの一部を国が負担し、価格低減と市場形成を前倒しする。普及初期のコストハードルを下げることで、産業競争力強化と排出削減の両立を図る。GX投資を通じた産業成長と排出削減の同時実現を標榜し、商用輸送・建設分野での電動化シフトを支援する。
商用車等の電動化促進事業

■民間企業等による再エネの導入及び地域共生加速化事業(一部 総務省・農林水産省・経済産業省・環境省連携事業)【令和8年度要求額 12,866百万円(3,450百万円)】
企業・地域の自家消費型再エネ導入を軸に分散型電力システムを構築、地域共生型エネルギー社会の実現を狙う。ストレージパリティ(蓄電池導入が経済的に優位となる状態)の達成を明確な到達点に据え、太陽光・風力・再エネ熱からデータセンター脱炭素まで幅広い技術・地域特性に応じた支援をパッケージ化した。

柱の一つは①ストレージパリティ達成に向けた価格低減促進。オンサイトPPAによる初期費用ゼロの自家消費型太陽光・蓄電池導入を支援し、CO2削減と系統負荷低減、停電時の電力確保を両立する。補助は太陽光設備に定額、蓄電池に1/3(EV・PHVをV2Hとセット導入する場合は容量×4万円/kWhの1/2、上限あり)を適用。②設置場所特性に応じた導入では、営農地や水面を活用したソーラーシェアリングやソーラーカーポート等に1/2、建材一体型太陽光には1/2~3/5の補助を設定。再エネ熱や工場廃熱利用にも1/3~1/2を適用し、地域単位での熱ゼロ化先行モデルには計画策定3/4、設備導入:1/3、1/2、2/3を支援する。

③離島脱炭素化では、EMSによる群単位制御を活用し再エネ比率を高める。計画策定は3/4(上限1,000万円)、設備導入は2/3を補助。④浮体式洋上風力では、導入計画策定や漁業関係者への理解醸成をセットで進め、社会的受容性を高める。⑤電力融通モデルでは、第三者保有(TPO)方式を活用し、建物間・地域間の電力シェアリングを推進。計画策定3/4、設備導入1/2~2/3の補助で、平時の省CO2と災害時のレジリエンス強化を同時に狙う。

⑥データセンターのゼロエミッション化では、新設・既設・モジュール型施設への再エネ・蓄エネ・省エネ設備導入に1/3を補助、普及方策調査も委託で行う。
民間企業等による再エネの導入及び地域共生加速化事業

■地域脱炭素推進交付金(地域脱炭素移行・再エネ推進交付金、特定地域脱炭素移行加速化交付金等)(環境省)【令和8年度要求額 70,118百万円(38,521百万円)】
脱炭素先行地域で培った実装を全国へ広げる「地域脱炭素2.0」を掲げ、地域課題と特性に即した面的施策を高度化する。柱は①先行地域づくり(原則2/3・概ね5年)、②重点対策加速化(屋根置き太陽光や住宅省エネの底上げ、2/3~1/3・定額)、③民間裨益型自営線マイクログリッド(原則2/3)、に加え④高度化・展開促進(新規)。④では高度なエリアマネジメントや熱の脱炭素、新技術の初期需要創出、地域金融・地域エネ会社・中小企業の連携案件を後押しする(原則2/3、又は2/3~1/3・定額)。

交付金の評価・検証・監理も強化し、データに基づく改善を継続する。想定する投資対象は、屋根置き自家消費型太陽光や蓄電池、ZEB/ZEH、木質バイオマス、水素利用、家畜排せつ物エネルギー、自営線マイクログリッドなど幅広い。

2030年度までに少なくとも100か所の先行地域創出と重点対策の全国展開を通じ、再エネ地産地消、断熱・気密向上、公共交通の利便性、防災・減災、生態系保全、循環経済を一体で進める。事業形態は交付金(地方公共団体等)と委託費(民間・団体等)の併用、実施期間は令和4年度~令和15年度を見込む。地域の創意工夫に基づく投資をテコに、脱炭素ドミノを加速し、地方創生と温室効果ガス削減の同時達成を狙う。
地域脱炭素推進交付金

■防災拠点や避難施設となる公共施設への再生可能エネルギー設備等導入支援(環境省)【令和8年度要求額 5,000百万円+事項要求(2,000百万円)】
第1次国土強靱化実施中期計画(令和7年6月閣議決定)や地球温暖化対策計画(令和7年2月閣議決定)に基づき、災害・停電時にも稼働する自立分散型エネルギー設備を整備し、地域レジリエンスと脱炭素化の同時実現を図る。

対象は、地域防災計画で避難施設に位置付けられた公共施設や、業務継続計画(BCP)で災害時に稼働が求められる庁舎・病院など。支援する設備は太陽光・地中熱・バイオマスなどの再エネ設備、熱利用設備、コージェネレーション(CGS)、附帯設備として蓄電池、充放電設備、自営線、熱導管、省CO2設備(高機能換気、省エネ型浄化槽等)まで幅広い。特に蓄電池としてEVを導入する場合は、通信・制御・充放電設備とセットで外部給電可能な車両に対し、容量の1/2×4万円/kWhを補助する。

補助率は導入主体に応じて段階設定され、都道府県・指定都市は1/3、市区町村(太陽光・CGS)は1/2、地中熱・バイオマス熱や離島は2/3を国が負担する。PPAやリースなどエネルギーサービス事業で自治体と共同申請する場合には、民間事業者も対象となる。実施は令和3年度から継続中で、学校や病院などを中心に、太陽光と蓄電池の組み合わせで停電時も照明・通信を確保する事例や、病院へのCGS導入によるライフライン強化が進む。

防災拠点や避難施設となる公共施設への再生可能エネルギー設備等導入支援

このほか、ペロブスカイト太陽電池の社会実装支援に50億円、太陽光パネルの再資源化促進に17.87億円が計上されている。ペロブスカイトは軽量・柔軟で設置制約が少なく、国内で主要原料ヨウ素を確保できる次世代技術。事業では、建物耐荷重調査などの事前調査や導入計画策定を支援し、屋根や窓、インフラ空間へのフィルム型・ガラス型パネル導入を補助(2/3~3/4)。自治体や民間企業を対象に令和7年度から実施し、導入初期のコスト低減と市場拡大を狙う。

使用済みパネルの大量廃棄に備え、再資源化体制整備も推進。ガラスの水平リサイクル実証や資源循環ネットワーク構築、廃棄期対応策の調査を進める。請負・委託・補助を組み合わせ、補助率は1/3~1/2。導入から廃棄までを一体で支援し、GX市場形成と循環型社会実現を同時に進める方針。
ペロブスカイト太陽電池の社会実装モデルの創出に向けた導入支援事業
太陽光パネルの再資源化促進のための環境整備